碧落を映したような双眸が瞬く。
手足を大の字に広げ、彼女は肌から伝わる草の感触を確かめる。

「ここは……」

ハイネの視界いっぱいに広がる青空。入道雲が遠くからこちらを覗いている。
空に向かって手を伸ばしてみると、手首に結んだトキの黒いリボンが、そよ風に揺れた。

あぁ、本当に仲間たちとは別れてしまったのか……――



ぬっ、と男の顔が空を覆う。
あまりに見覚えのある顔で、ハイネは悲鳴を上げて飛び起きた。
案の定、ゴチッ!と額同士がぶつかる。

「いっ痛~~~~!?」

「ってーな、オイ!」

同じような仕草で額を押さえてから、これまた同じようにお互いを見つめる。

「嬢ちゃん、大丈夫か?
こんな原っぱで1人、何してんねん」

「ここ、どこ?
あんちゃん誰なん?!」

ハイネの前で尻餅をついている赤い髪の男。年齢は三十代前半といったところだろうか。
眼帯で片目を隠した緑の瞳。その男は、自らの瞳の色を示すが如き名を述べた。

「ワイはヒスイ。旅のモンや。
すぐそこで気配を消しとる男前がワイの主、ヒューラン」

ぎょっとしてハイネが振り返ると、深紅の外套を羽織る褐色肌の青年が立っていた。
――まったく気配に気付かなかった。

「……すまない。その、別に隠れているわけではないのだが」

「あぁ、うん、こっちこそごめんな?
うちはハイネ。えぇと……うちもタビビト、かな」

「こんなコマい嬢ちゃんが一人旅なんか?」

「コマい言うな!」

土埃を払って立ち上がったハイネは周囲を見渡す。
少し潮の香りを含む風と、この夏空。恐らくここは青の国に近しい何処かだ。

「ねえ、ヒスイ兄ちゃん。ヘンな事聞くけど、いい?」

「おう、何でもきぃや?
ワイは独身やから……」

「そういうんちゃうっての。
――今って、西暦何年?」

ヒスイとヒューランは、ハイネを挟んで怪訝な顔を投げ合う。



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