「おいおい、学者先生よぉ。十数人って言ってなかったかぁ?」

現れた兵の数は、少なく見積もっても100名ほどいるだろうか。
全員武装し、強固な甲冑に身を包んでいる。

「増援を呼ばれたのかもしれない……。
くっ、迎え討つしかないか……!」

アトリは剣の柄を掴んで引き抜く。細剣の刃が煌めいた。
それに続くように、仲間達もそれぞれ武器を手にする。

ジリジリと兵士に詰め寄られる。後ろは絶壁だ。逃げ道はない。

「ハイネ、はよ飛び込め!!
こいつはどうにもならんぞ!!」

「で、できへんよ!! 皆が危な……っ!!」

「あの赤髪の小娘だ。間違いない。重罪人だ!! 捕えろ!!」

「させませんっ!!」

「邪魔をする者は殺せ!!! うおおおお!!!!」

一斉に斬りかかってくる。





ウバロは拳で襲いくる兵を次々に殴り倒す。
アトリが甲冑の隙を的確に突き、ユーファが銃と大剣で受け流す。
仲間が傷つけばベティの癒しの力が傷を塞ぎ、ハイネに近づく者を威嚇するようにトキが大斧を振り回す。
小さなアキでさえ、小型のナイフを手にハイネの前で手を広げている。



――行かなきゃ。早く行かなきゃ。

――でも、うちが行ったら、皆どうなるの?

――うちがここで捕まれば、皆を逃がせるんじゃ?



「ハイネ、今何を考えてるのか、ぼくにはわかるぞ。
でも、姉ちゃんたちがなんで今戦ってると思う?」

アキの冷静な言葉。

「だって、そんな、うち……!」

「早く行けよ、マヌケ!!
お前がさっさと行かなきゃ、皆、ずっと戦わなきゃならないんだぞ……!!」

小さな背中が震えている。
彼だって怖いんだ。当たり前だ。幼い少年なのに、自分よりずっと年上のハイネを守ろうとしている。

「あぁそうだ、マヌケなお前にはこれを渡さなきゃいけないんだった」

アキは鞄から何かを取り出す。
――父の遺品である、端が欠けた世界地図だった。

「持ってけよ。次の世界で“道に迷ったら”、困るだろ。
そこがここと同じ地理かは知らないけどね!!」

「アキくん……」

一歩、二歩、後ろに下がり、ハイネは背後の奈落を見てゴクリと喉を鳴らす。



「ハイネさん!!」

「ハイネ!!」

「ハイネさぁ~ん!!」

仲間達の声がする。

――飛び込まなきゃ。早く、早く、早く……



逞しい腕に勢いよく抱えられた。
ハイネの華奢な体が宙に浮く。

――ユーファが、ハイネを抱えて奈落に飛び込んだのだ。


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