翌朝。
案の定、アキは馬車の中でウトウトしていた。
船を漕いでは姉の腕に頭をぶつけている。
「もう、教育に悪いです。アキはまだ小さいのに、徹夜させるなんて」
「すまん、すまんて。アキ坊も本気やったし、ついこっちも熱が入ってもうてな!」
がはは、と笑っているユーファに、トキは呆れた目を向ける。
「アキくん、そない遅くまで何しとったん?」
「お前の王子サマになる修行だよ。くくっ」
「えー?! そら嬉しいなぁ! ふふ!」
――冗談か本気かは、よくわからないけれど。
うたた寝しているアキを楽しそうに眺めているベティにも、わかりやすい変化があった。
「ベティ、前髪切ったん?」
「わぁい! ハイネさん、気付いてくれました?!
昨夜アトリさんがベティに愛を囁いてくれたので、思い切ってイメチェンしてみたのです♪」
「ちがっ、私はそういうつもりでは!!」
操縦席で手綱を引いていたアトリが咄嗟に振り返る。
ニヤニヤと笑うユーファとハイネ。――表情がそっくりである。
「アトリもいい歳やしな。うん。兄ちゃんは弟の春を歓迎するで!」
「や、やかましいわっ!! 愚兄の分際でっ!!」
「おうおう、素が出とるぞー。くくくっ」
兄弟のやりとりを余所に、ベティはニコニコと瑠璃の瞳を細めている。
「女子の前髪の変化に気付くヒトはモテますよぉ。なーんちゃって!」
「ん! ベティは顔隠さない方が可愛いで。せっかく美人さんなんやもん!」
「も~、褒め上手ですねぇ、ハイネさんは♪」
いつにも増して賑やかな雰囲気だ。
今にも横から刺客が飛び出してくるのではないかと不安な気持ちを覆い隠すように。
-136-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved