今からずっと昔。
大体45年くらい前だったでしょうか……。
その頃、『異世界』の存在を確信した私は、魔境にある謎の奈落が異世界同士を繋ぐ通路だと突き止めました。
――あ、私の年齢に関しては気にしちゃダメですよ。



クレイは散々私を止めました。絶対死ぬからやめろと。
それでも自分の命より知的好奇心が勝っていた若かりし頃の私ですから。
クレイの魔力をちょっと借りて、奈落に身を投げました。
今考えれば末恐ろしい行動をしたものですが、まぁ、若気の至りということで。



さて、その後私が戻ってこないものだから、クレイはすっかり私が死んだと思い、半泣きでこの機関まで戻ってきました。
ところがどうでしょう。死んだはずの私が、しれっと機関にいるわけです。
いやあ、あれほど驚いたクレイの顔は後にも先にもあの時だけです。

この話の種明かし。

実は私、奈落の底から黒の国まで“飛んで”きてしまったのです。
私がその時携えていた魔力の量は、良くて5人分ぐらいだったでしょうか。
クレイは生まれつき物凄い魔力量を持った人でしたからね。それくらい、彼にとっては微量ですよ。

私が持って行ったその魔力量と、そこからもたらされた結果ってわりと現実的なもので。
ごく普通に転移魔法で飛んだ場合、ゲートの場所から機関まで、およそ人間5人分の魔力を消費します。



そこから私は仮定しました。
あのゲートは、一見奈落のようですが、瞬間移動の力を持った巨大な『膜』なのだと。
ゲート自体に物体を転移させる能力があるので、あとは燃料となる魔力を持ってさえいれば、その量に応じた場所へ飛ぶというわけです。
ヒトというものは、多かれ少なかれ、魔力を体内に宿しているもの。
ですから、もし手ぶらでゲートに身を投げたとしても、体内の魔力の分、どこかへ飛ばされるのだと思うのです。
要は、一定以上の量の魔力がなければ、トランポリンのように弾き返されるだけってことです。



「……ただし、検証はその当時の一度きり。
何度か試行したかったのですが、クレイに愛想を尽かされてしまったのでやめました」

イタズラっぽく微笑んでレムリアはそう付け加えた。

「確かに、100%死なない保証はないです。
ですが、100%死ぬというわけではないのです」

「……レムリアさんが言いたいことはわかったよ。
でもなぁ、だからといってうちがその勇気を出せるかっていうと……」

苦笑いのハイネは、ある事を思い出す。

「ちょっと、待っとって。
カイヤ先生に聞いてみる」

彼女は懐中時計を開いた。



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