長い沈黙が流れた。



凍った石畳にうずくまるリシアの前に、ゴロゴロと鈍い音を立てながら砲丸が転がってきた。
真っ赤な血の筋を地面に引きながら。



状況が呑み込めずに立ち尽くすカレイドヴルフの騎士達は、半身を砕かれた主の姿を見つめる。
頭から流れる血が広がり、茫然とへたり込むリシアの足元を赤く染める。



――即死だった。



「嘘よ……。
ねぇ、コーネル、返事をして……。
嘘よ、嘘でしょ、うそ、ウソ……」

懐かしい故郷の色をした彼の瞳は、光を失った。
宝剣を持っていた右手は、あまりの衝撃に耐えかねて原型を留めていない。



「敵軍の指揮は討ち取った!!
残党を片付けろ!!」

「殺せ! 殺せ!」

主の亡骸を守ろうと、なおもカレイドヴルフの騎士達は剣を振るう。
ある者は泣きながら、またある者は鬼のような形相で。



だが、そんな光景も、今のリシアにはもう何も響かなかった。
自分の中のありとあらゆる何かが崩れ落ちたのだ。

「ねぇ、なんで庇ったの?
……どうして私を助けに来たの?
あんたの命の方が、私なんかより、何十倍も重いのに」



捨て置いてくれてよかったのよ。
私はもう、用済みの命だったのに。

私が生にしがみつきすぎたせいなのかな。
20年前に、終わらせておくべきだったのかもしれない。

それでもね、

「……嬉しかったのよ。あんたが、ずっと私を忘れないでいてくれたこと」


首筋に冷たい温度が走る。



――あぁ、これで全部終わるんだね。



――ごめんね、待たせすぎちゃった。




-120-


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