防戦を極めていたアルマツィア軍の様子が、一瞬にして切り替わる。
その凶刃は目の前の名も無き騎士ではなく、揃って敵軍の統率をとる2人に向けられた。
アルマツィア軍の戦略の変化にカレイドヴルフ軍が気付いた時には、もう遅かった。
敵の懐に、深く潜り込み過ぎていたのだ。



「様子がおかしい!!
陛下とリシア様をお守りしろ!!」

「囲め囲め!! 向こうへ行かせるな!!」

「駄目だ、間に合わない!!
陛下!! リシア様!! 今すぐお逃げください!!」

部下達のざわつきに気付いたコーネルは、馬上から何かの気配を察知する。
それはリシアも同じだったようで、魔法の詠唱を途中でやめた。

遠くで何かが煌めいている。
“何か”が迫りくる音がする。

どうしてだろう、リシアにはその音に覚えがあった。
否、あるはずもないのに、“それ”を知っている気がした。

『知らない光景』が、脳裏に浮き出た。


――教皇様、クロラ様、危ない!!

――あぁ、コーネル!! コーネル!! やっぱり来てくれてたのね!!

――あの砲撃の時、私とクロラ様を庇って……



「なによ、なによこれ?!
私、知らないわ、こんなの……!!
だめ、だめよ、――逃げて、コーネル!!」

「リシア――――――ッ!!!」

駆けつけた馬の横殴りの体当たり。
リシアは鞍の上から投げ出された。



重く、黒い、鉄の“死神”が、目の前で、弟の命を奪っていく――……



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