20年ぶりに開かれた扉の向こうには、コーネルが立っていた。
リシアが知る顔よりもずっと大人びた弟の姿。
躊躇いなく差し伸べられた彼の手を恐る恐る握ると、とても大きくて逞しい力に引っ張り出された。
思わず目が眩む。20年ぶりの外の光を浴びたせいなのか、未熟だった弟の立派な姿に面食らったか。

「歩けるか?」

「え、えぇ……。ねぇ、どうなってるの? 外は一体……」

「自分の目で確かめろ」

暗闇の中から現れたリシアを見た控えの騎士達は、諸手を挙げて雄叫びを上げる。

「リシア様! リシア様だー!!」

「万歳、万歳!!」

その勢いで塔が揺れるほど、彼らの歓声は希望に満ちていた。



コーネルに支えられながら塔の階段を下り、ついに地面を踏みしめる。
積もった雪の反射光でまたも目を細めてから、リシアは唖然とした。

塔を囲むように、大勢のカレイドヴルフ軍が整列している。
白の国の民も若干名混じっているようだ。
その中の1人が、大きな旗を持ってリシアに歩み寄る。

「リシア様。我々の顔を覚えておいでか?
わしは、20年前にレジスタンスを率いていた頭。貴女様が振る旗を見つめ、希望を胸にしていた者。
この20年の間に、狂王に制裁された者や年老いて死んだ者、大勢おります。
それでも我々は貴女様のご無事を信じていた。今日こそ、“歴史”が正される時じゃ。
さぁ、この旗を。また我々を導く戦乙女となってはいただけまいか」

跪く老人に差し出されていた旗の柄を、リシアはそっと握る。

「もう“乙女”なんていう若さじゃないわ。
……でも、嬉しい。信じて待っていてくれてありがとう。
いいわ、共に立ち向かいましょう」

騎士が連れてきた馬の背に乗り、リシアは聖都を見つめる。
同じく愛馬に乗ったコーネルが彼女に歩み寄った。

「あんたがここにいるという事は、“終結”も近いのね?」

「あぁ。このまま聖都に乗り込む。
一般市民に危害を加えるつもりはないが、妨げる者は――容赦しない」

「わかったわ。
――行くわよ、全軍!」

「――進軍せよ!!」

地鳴りがするほどの歓声を引き連れ、姉弟は聖都へと駆ける。




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