太陽の光がどんな色だったか。
もう忘れてしまった。
人々の声がどんな音だったか。
思い出せない。
ただ死ぬまでの時間を過ごすだけの、酷く孤独な石の鳥籠。
『今日』がいつ終わり、『明日』がいつ来るのかの境目もわからない牢獄の中、“彼女”の耳は微かな喧騒を捉えた。
乱暴に金属が擦れあう音。まったく礼節のない、懐かしい響きだ。
冷たい石の床から素足を通して感じられる振動は、もう全てを諦めていた“彼女”の心に『まさか』といった光を灯す。
「リシア!! どこだ!! 返事をしろッ!! 生きてるんだろ?!」
思わず“彼女”は立ち上がる。
見開いた藤色の瞳から、枯れたはずの涙が、再び。
「この声……、この声、は、……嘘でしょ……? なんで……?!」
「応えろ、リシアッ!!」
怒鳴るような男性の声。
この声だけは、絶対に忘れない。
「コーネル……。
コーネル、私はここよ!! コーネル!!」
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