奇妙なほどに、トキは冷静だ。

いつも通りに仲間達の食事を作っているし、少しばかり“子供”に返ったアキの甘えたがりにも優しく微笑んで受け入れている。
何度様子を伺っても、「私は大丈夫ですから」の一点張り。

「なぁ、トキちゃん。無理せんでえぇよ?
ほら、うちも一応料理できるし……。いや、旨いかはわからんけど」

宿の個室の厨房に立つ後ろ姿にハイネが声を掛けるが、振り返って微笑む彼女は首を横に振る。

「大丈夫ですよ、ハイネさん。
あ、お腹空きましたか? 待っててくださいね、もうちょっとでお惣菜が揃……いたっ」

コトン、と包丁が置かれる。
ぎょっとしたハイネは慌ててトキの手を取る。

「ほらぁ、指切ってもうたやん!
待ってて、今切り傷用の薬調合するから!」

「いえいえ、そんな、大丈夫ですよ。私も一応応急セットは持ってますから。
そうだ、ハイネさん。ちょっとお鍋見ていてもらってもいいですか?
すぐ戻りますので」

「え、あ、うん……」

ニコッ、と微笑んだトキはパタパタと小走りで奥の部屋へと引っ込む。





ぐつぐつと煮立つ鍋の中は、変わらず美味しそうな味噌汁で満たされている。
ハイネは時々鍋の中をぐるぐると混ぜながら、やりきれない気持ちを持て余していた。

「おっ、えぇ匂いやな。
……って、ハイネやんけ! お前が作ったんかコレ」

ユーファが呑気に顔を出す。

「ううん。トキちゃんが作ってたよ。今は火の番してるだけ」

「そうかそうか。お前だとゲテモノ作りそうやもんな」

「ひどいわぁ!
うちかておとんから仕込まれたレシピあるんやからね?!
……6年前の知識やけど」

お互い軽口を叩き合ったところで、ハイネは深く溜息を吐く。

「……なー、ユーファ。
うちってそんなに相談しづらいかな、悩みとか」

「お前が?」

「トキちゃん、なんかずっとうちに気を遣ってる気がして……。
確かにうちは何も出来へんけど、話くらいなら、聞くのになぁ……」

頭の後ろで手を組んでいたユーファを明後日の方向に目をやる。

「“お前だからこそ”何も言えへんのとちゃう?
女の友情は、俺にはようわからんけど」

「それはそれで、困ったもんやなぁ……」

再び肩を落としつつ鍋に視線を戻すハイネ。
ユーファはそろりと厨房を後にする。




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