冷たい石の床、壁。
昼夜問わず真っ暗な空間。
時々照らす光は、遥か頭上にぽっかりと開けられた小さな通気口から。
そして、朝と晩に差し出される食事を置かれる時に注がれる。



“ここ”へ来た当初は、過ごした日々の数を、鋭利な石の欠片で壁に刻んでいた。
絶対に抜け出してやると燃える闘志を胸に、来るその日まで正気を保つため。

でももう、そんな事も遠の昔にやめてしまった。

察したのだ。私はここでこの一生を終えるのだと。
明るく花咲くような幼少期の思い出も、故郷を離れて愛しい人と過ごした日々も、奈落に突き落とされた晩年も、すべてをこの腕に抱えて、孤独に。
なのに、先に旅立った“あの人”は一向に迎えに来てくれない。
あれから何十年経ったのか、もうわからない。

――早く来てよ。私、お婆ちゃんになっちゃうわ。





それは、白の国の中枢、聖都アルマツィアの末端。
東西南北に腰を据える要塞の1つの傍らに佇む、古ぼけた石の塔。

“彼女”はずっと、そこにいる。

愛する人を奪われ、人間らしい日々をも奪われ、20年もの間ずっと。




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