池に近づき、ようやくアトリが何をしていたのかが発覚する。



池の傍に、数人の生き残りの村人と、灰に成り果てる前になんとか運び込めた遺体が横たわっている。

「あぁ、アトリ様、なんと御労しい。命だけは助かってよかった……」

村人がユーファに抱えられているアトリに向かって膝をつく。

「と、トキちゃん、アキちゃん、あぁ、なんてことなの……」

火傷した腕を庇っていた主婦が、トキとアキの姿に涙を流す。
その涙が何を意味するのかは、もうわかりきったようなものだった。



主婦に優しく背を押され、トキはアキと手を繋いで示された場所へ向かう。

「……父さん……」

燃え残ったなけなしの藁の上で横たわるアンリの姿。
――彼はもう、息をしていなかった。



しゃがみ込んで彼の手に触れる。
雪よりも冷たいその温度に、トキはポロポロと涙を零す。
アキは浅く息をしながら恐る恐る父の手に触れ、すぐ引っ込めてしまった。

「やだ、やだよ、父さん、とうさ……」

アキは父に縋って泣き声を上げる。
悲痛な少年の声に、生き残った村人達は思わず目を逸らす。



「母は……どこに?」

トキが傍らの主婦に尋ねると、彼女は静かに首を振った。

「ごめんなさい……。最期に会わせてあげたかったのだけれど……。
マオリさんの御遺体は、ちょっと……見ていられなくて。
その……首を、撥ねられて……」

トキはゆっくりしゃがみ込み、そのままへたり込んでしまう。



ユーファの手から離れ、フラフラとやってきたアトリが、真冬の地面に手をついて頭を下げる。

「私は……守りきれなかった。間に合わなかった。すべて私のせいだ。すまない、すまない――……」

彼の拳が掴んだ雪が、己への叱責のように握りつぶされる。



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