屋根に打ち込まれた火矢によって、建物は無残に焼かれていた。
トキがあくせく耕した畑に実る穀物も、村唯一の学び舎である学校も、すべてが灰になっていく。
道端には黒焦げの人間が倒れている。
トキは思わずアキの目を塞いだ。だがアキは、姉の手を振り払って涙を拭う。
トキとアキが育ったあの家も、既に火の手が回っている。
ただ玄関が開け放たれ、囲炉裏がある部屋が荒らされ、畳の上に赤黒い液体が飛び散っていた。
構わず土足で上がり込んで両親を呼ぶが、返事はない。
書斎や寝室を覗いても、誰もいない。
いよいよ天井が焼け落ち始め、5人は否応なしに外へ逃げ出す事になる。
「どこにもいない……逃げられたのかな……?」
アキは不安げに呟く。誰かにその言葉を肯定して欲しかった。
ドカドカと音を立てて崩れていく自分の家。
それを止める力は、小さな手にはない。
家の周辺を見てまわると、家の裏で馬が1頭死んでいた。
白い毛並が焦げ、腿には矢が刺さっている。
「こいつ……アトリの馬やないか!!」
鞍には緑の国の紋章が刻まれている。間違いない。
緑の国の騎士で白馬を駆るのはアトリだけだ。
「アトリ――ッ!! 返事しろ――ッ!!」
燃える炎の弾ける音に負けない大声で呼びかけるが、やはり返事はない。
誰かがいたはずの村なのに、誰の気配もない。不気味だ。
「ユーファさん、あそこに人が倒れているです!」
ベティが指差したのは、崩れ落ちた家の向こうの道。
誰かが横たわっている。
その髪色を見て、すぐにわかった。
「アトリ!!」
ユーファは駆け出す。
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