まだ外は薄暗い。
火の番をしつつ耳をすませていたユーファは、自分の膝を枕代わりに眠り込んでいたハイネがうなされている事に気が付く。
悪い夢でも見ているのだろうか。
いつもは溌剌と楽しげにしている彼女のその姿は珍しい。
注意深く様子を伺っていると、彼女の眠る瞳から一筋涙が流れた。
「おい、ハイネ」
小声で呼びかけてそっと肩を揺する。
すると彼女はゆっくり目を開けた。
「あれ……朝?」
「いや、まだやけど。
……どうした? ヘンな夢でも見たか?」
彼に言われ、ようやく自分が眠りながら泣いていた事に気が付き、慌てて目をこする。
「な、何見とんの! もう、恥ずいからガン見せんとって……。
……でも、おおきに。よう覚えとらんけど、イヤな夢見た気がする」
「もっぺん寝るか?」
「いや、いいわ。目ぇ覚めてもうたし。火の番代わるよ。ユーファもちょっと寝とき」
「俺は別に。徹夜慣れとるし」
「んもう。そう言うて、うちが危ない時にうたた寝してもうたらどないすんねん!」
「はははっ! それもそうやな。そんじゃ少しだけ。
でも地面硬くてやってられんわ。お前の膝貸せ」
「え~?!
それ年頃の女のコに言うかぁ~?!」
彼が預けてきた頭を渋々受け入れる。
ユーファは心地よさそうに目を閉じた。
「なぁハイネ。お前、ほんまに別の世界から来たんか」
「だから、何度も言うとるやろ。まだ信じてへんかったの?」
「いーや。別に。
でもまぁ、いずれはちゃんと帰れるとえぇなぁ、お前」
忘れかけていた先程の夢が蘇る。
――うちは“花を摘んだ”。
ここにいる仲間達、彼らの親や周辺の人々。
名も知らぬ無数の人達。
関わってきた人の数なんて、もう数え切れない。
自分がこの世界を旅立った後、ここはどうなるんだろう。
「……やっぱ、うち、はよ帰った方がえぇよね?
寄り道しないでさ、真っ直ぐに」
「寄り道しすぎたら、迷子になってまうかもな」
――迷子……。
「ま、帰れなくなったら俺ん家来い。俺とアトリの妹になればいい」
ユーファはそう言ってくくっと笑う。
ハイネの心の中で固まっていた何かが、少し溶けた気がした。
彼につられて笑ってしまう。
「えぇ、妹?
でもさ、計算してみると、うちがユーファより年上やん?
だって今からもう“34年前”に生まれとるもん。うちが姉ちゃんやない?」
「あぁ、ちょうどウマい頃合いやね。俺は年増が好きなんよ」
「あっ、そんな事言うて!! トキちゃんにチクったるからな」
「やめろやめろ~! トキは別枠やて~!」
うーん、と唸りながら寝返りを打つアキを遠目に見て、ハイネとユーファは声を引っ込める。
いつの間にかユーファが寝つき、ハイネは焚火を見つめて時間を潰していた。
図体のわりには子供のように眠る、膝に乗せた横顔。
なんだか弟でも見ている気分になり、ハイネは彼の黒髪をそっと撫でた。
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