「どこも旅人お断りってか。
このままじゃ4人揃って氷漬けやで」
ハイネ達は宿を探して半日歩き回っていた。
素性の知れない旅人である彼女らを受け入れてくれる宿は、このご時世皆無といってもいい。
しかし白の国の夜間は生死が危ぶまれるほど冷え込む。
もたもたしていると本当に凍り付いてしまう。
広場を通り抜け、空き家になって久しい大きな屋敷の前を通り過ぎ、皇族が住む宮殿を横目に大通りを行く。
歩き回っていないと鼻から氷柱がぶら下がりそうだ。
かじかむ手で聖都の地図を見ていたユーファは、どこかで鈍い音がしたのを聞き取る。
うん?と顔を上げ、彼はキョロキョロ辺りを見回した。
「何の音や?
屋根の雪でも落ちたんやろか」
「う~~~~……」
少女の呻き声がした。
4人が宮殿の離宮らしき建物の近くまで来てみると、降り積もった真っ白な雪の地面に「人型」の溝が出来ていた。
絵に描いたように綺麗な穴である。
ハイネが荷物を漁って小型のランタンに明かりを灯し、恐る恐る穴を覗き込む。
「ぷはぁっ!!!
はぁッ、はぁッ!!! さすがのベティも窒息だと死ぬかもしれないのです!!!」
「うわぁ?!」
驚いて仰け反りバランスを崩したハイネをユーファが受け止める。
溝から現れたのは、日中に広場で見た『聖女』だ。
「だ、大丈夫ですか……?」
トキの力強い腕力で引っ張りだされた聖女は、キョトンとしてからヒマワリのような明るい笑みを浮かべる。
「わー!! お昼のお姉さん達ですね?! また会えて嬉しいのです!!
再会を喜びたいのですがベティは今とっても!! ピンチ!! なのです!!」
離宮の最上階の開け放たれた窓から兵士達が数人顔を出して声を上げている。
「お兄さん、お姉さん、ベティを連れて全速力で逃げて欲しいのです!!
ベティはもうあの人達のところには帰りたくないのです!!」
トキに抱きかかえられたまま、わたわたと手足を振るベルベティは必死に懇願してくる。
「うわ、やばいよハイネ!
向こうから兵士がいっぱい!!」
アキの一声を聞き、ハイネとユーファは同時にニンマリと笑った。
「おうおう、走れば寒さなんざ吹っ飛ぶぜ!!
いくぞお前ら!! こんな外も人間も冷てぇ街にいられっかっての!!
こうなったら聖都からオサラバしてやんよ!!」
「よし、行こっ!!
トキちゃん、聖女ちゃんは任せられる?!」
「えぇ、ばっちり余裕です。アキで鍛えてましたから」
「アキ坊は俺が背負ってやるぜ。ほら、来い!!」
「なんだよもー!! 皆してぼくを子供扱いしてさー!!」
聖女を連れた一行は、遠くから迫りくる多勢の足音から逃れるように、寒々しい雪の道を走り抜ける。
大人達から逃げるイタズラっ子のように。
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