あの指輪は……――
そう、大好きな「おば様」の形見。
この手にとって、握りしめたい。
例えそこにもう温もりがなくても。



「兵士さん、兵士さん」

部屋の中で見張り番をしている長身の兵に、聖女――ベルベティは呼びかける。

「ベティは今日広場で会った赤い髪のお姉さんに会いたいのです」

「いけません。癒し手の時間以外の一般人との接触は固く禁じられていますゆえ」

「あのお姉さんは、ベティの宝物を返してくれようとしていたのです。
それを受け取るだけでいいのに、どうしてダメなのです?」

「教皇陛下の指針です」

「ベティはいつまでここに閉じ込められるのです?
確かに、お怪我された兵士さんを治療するのは良い行いだと思うです。
でも治しても治してもキリがありません。
あの方達は、“ベティちゃんに治してもらえばいいや~♪”と命を軽視しすぎなのです。
これは由々しき事態ではありませんか?」

「それは……その……」

「いっぺん死んでみると良いのです」

「し、しーっ!! いくら教皇陛下がいらっしゃらないからといってそのような事を……!!」

「死ぬに死ねないベティの身になってみろってんです」

ぷく、と頬を膨らましてから、ベルベティははっとする。

「死ぬに死ねない……盲点だったのです」

「と、言いますと?」

おもむろにベルベティは窓を開け放つ。
ここは宮殿の離れ、地上3階だ。
夜風が寒々と吹き抜ける。

「ま、まさか……
いっいけませんベルベティ様――――ッ!!!」

べ、と舌を出したベルベティは、窓の外へと身を投げた……――





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