小さな手をかざしただけで、まるで奇跡のように傷を癒してしまう『聖女』の力。
半ば信じられないが、門番に言われた通りに広場を覗いてみると、人だかりができていた。
長身のユーファが少しばかり上から覗きこめば、大怪我を負った兵士や寝たきりの老人などが、広場に設けられたテントの中で横たわっている。
怪我の痛みに呻く鈍い声がそこかしこから聞こえてくる。

「聖女様……、は、早く……」

「もう死んでしまいそうだ……」

癒し手の救いを求める人々。
果たして聖女とやらはどこにいるのだろうか。



「聖女ってどんな人なの?」

噴水の傍に腰掛けていた老婆にアキが尋ねてみる。

「おやまぁ、このご時世に旅の者かい?
聖女様はほら、あの方じゃよ」

彼女が杖で指し示した方向に、小柄な少女と、少女の側近らしき屈強な兵士がいる。
金色の長い髪に上品な黒いミニドレスという少女の身なりは、中流以上の階級である事が窺える。

「どんな怪我でも治してしまわれる奇跡の力をお持ちなのじゃよ。
足が折れようが、腕がなくなろうが、すべて元通りじゃ。
あの方がいらっしゃるために、白の国の兵はいくら傷ついても瞬時に治癒する。
つまり、どれだけ青の国から攻められようとも、我が国は決して負けぬ。
そう、“不死身”の軍なのじゃ」

「それって……じゃあこの戦争は……」

「ほほ、そこの茶髪の姉さんは察しがいいのう。
そうじゃ。この戦争、もう我が国の勝利も同然。
青の国は犬死にした兵の屍を積み上げるだけじゃ」

患者一人一人に膝を折り、微笑みかけながら手をかざす少女。
目元は髪で隠れてよく見えないが、人懐こそうな雰囲気からか皆に歓迎されている。
ユーファに背負われているハイネに気が付いたのか、その少女はこちらを指差して側近の様子を窺った後、小走りでやってくる。

「お姉さんもお怪我をされていますですね?
すぐに治して差し上げますの!」

溌剌とした声音で、“聖女”はハイネの腿に巻かれた包帯の上に手をかざす。

「ちょびっと痛むかもしれないのですが、一瞬なので!
いきますですよー?」

「ぎゃっ!!
……って、アレ?」

かざした手が光を帯びた後、ハイネは驚いたように患部に触れる。
恐る恐る包帯を解いてみると、まるで嘘のように痕一つなく健康な肌を取り戻していた。

「はい、おしまいですよ♪
お大事になのです!」

くるりと背を向けた少女を、ハイネは思わず呼び止める。

「ねぇ、聖女さん。
この指輪、君の……?」

ハイネが差し出した、傷付いた深紅の宝石の指輪。
金髪の影から、わずかに瑠璃色の瞳が丸くなったのを垣間見た。

「ベルベティ様。患者はまだまだおりますゆえ」

ハイネの声を遮るように、側近たちが横から図々しく入り込む。

「あっ、ちょ、おっちゃん達!
こら! 待っ……」

大柄な彼らの向こうに隠された少女は、ペコリと頭を下げて去ってしまった。





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