裾の一部が破かれた外套を見て、ユーファは腹を抱えて笑う。

「そ、その、仕方なかったっていうか!!
わかってるよ、たぶん高い上着なんだろうけど、それ……」

アキはバツが悪そうに頬を膨らませるが、ユーファは大きな手でアキの頭をぐりぐりと撫でまわす。

「何言っとんじゃ、アホ!
お前はハイネのヒーローやて。こんな上着なんざいくらでも買える。気にすんな!」

ぐちゃぐちゃになったアキの髪を、トキが嬉しそうに撫でて直す。

「すごいです、アキ。姉さんだったらそんなに賢いことできません。鼻が高いです」

「うんうん! アキくん、ほんまおおきに。ありがとなぁ。
ヘタしたら死んでたで、うち。アキくんは命の恩人や!」

「こ、これくらい!
ん~~もう!! なんだよみんなして!! もういいだろ、この話は!!」

合流した一行は、はぐれた場所まで戻った。
足の傷が深いハイネは、ユーファが軽々と背負いあげる。

「ちょっと、ドサクサに紛れてヘンなとこ触らんといてよ?」

「そういうのは食い気より色気になってから言うもんや……って、いだだだ髪引っ張るな!!」

4人は雪原を再び歩み始める。

「にしても、ハイネの傷は何とかせな。
アルマツィアなら医者の1人や2人はおるやろが……」

「うちの傷はいいよ。気にせんといて。
このままユーファが黒の国まで背負っていってくれればええやん」

「おま、調子えぇなぁ!!」

実のところ、ハイネは少し楽しい気分だった。
子供の頃に父親の肩車が好きだったのを思い出したのだ。悪い気分ではない。

「それでも、傷が残ってしまうのは残念です。
やっぱりちゃんと治しにいきましょう、ハイネさん」

「うーん、トキちゃんがそう言うなら……。
せや、ついでにあの遺品の指輪を渡す子探そ!」

戦時中の首都に入るには些か勇気がいるが、ハイネの希望もあり、一行は聖都アルマツィアへと向かう。





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