(殺せなかった。何故だ?)

――崩れ落ちた崖を見つめる灰色の瞳。



あの小娘は野放しにしてはいけない。
歴史の旅を重ねるのは俺だけでいい。
余計な介入は破綻の引き金となる。
潰すなら、今のうちに。
芽の出ないうちに、摘み取るまで。



なのに。

殺せない。



俺が求める未来を、あの小娘は掻き乱してしまう。
それだけは、赦せない。
たとえあの小娘が、かつては師として仰いだ者の娘だったとしても。



それでも、あの魂は、俺の仕組んだ罠に嵌りながらも、死なない。
『何か』が、あの魂から死を遠ざけている。



必ず死ぬ運命の魂があるのなら、必ず生きる運命の魂もあるということか?

冗談じゃない。

誰だ。俺の道を妨げる存在は。

どうしてわかってくれない。何故邪魔をする。

俺はお前を救いたい。あらゆる歴史の全ての『お前』を。

『お前』自身が、俺の前に立ちはだかるのだとしても、俺はもう、歩みを止められないんだ。





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