空が暗くなっていく。
焚火に小枝を入れつつ空を見つめていたアキは、いよいよ自分達の状況が悪い方向に向かっていると察する。
恐らくユーファやトキが今必死で探してくれているのだろうが、すぐに見つけてもらえるとは思えない。
何度も大声で姉を呼んでみたが、返事が届かないのだ。
相変わらずハイネは気絶したままだ。
焚火のおかげで体の冷えはいくらかマシになったようだが、足の怪我のせいで熱を出し始めた。
心の中で謝りながらハイネの鞄も漁ってみたが、いつぞやに見た薬の調合に使う器が出てきたくらいである。
――ハイネ、苦しそう。薬とか……作れないかな……。
ふと、アキはハイネの懐に目が行く。
その先の“魔力時計”の存在を思い出したのだ。
(ハイネの師匠って人なら、助けてくれるかな……?)
これ以上悩んでも悪化する一方だ。
アキは魔力時計を開いてみた。
『もう、こんな夜中に何ですか、ハイネさん!』
あの声がする。
アキは思い切って声を掛けた。
「えっと、ハイネじゃないんです。アキです」
『あれ? それは失礼しました。
……って、イタズラは駄目ですよ』
「違うに決まってるだろー!!
た、助けてよ、師匠さん」
『……どうしたんですか?』
真面目に話を聞く気になったのか、時計の向こうの声――カイヤは問いかけてくる。
「ぼく達、今、雪の中で遭難しちゃって。
ハイネが、怪我して、その……すごい熱で」
『ハイネさんとアキさん、お二人ですか?』
「うん……。動けるの、ぼくしかいないんだ。姉ちゃんやユーファとははぐれちゃって。
ねぇ、ハイネの熱を下げる薬って、作れない?
ハイネの調合用の道具はあるんだけど、ぼく、薬なんか作ったことないから……」
『わかりました。じゃあいくつか質問するので、見た通りのまま答えてください。
ハイネさんの怪我は、どんなものですか?』
「岩で切っちゃってて。太腿に、ザクッって。
止血はしたんだ」
『なるほど。裂傷ですね。それで、今そこは雪国なんですよね?』
「うん。アルマツィアの近く。森の中。草はいっぱい生えてるみたいなんだけど、これ、何の植物だろう……」
『葉が白くて、表面にうっすら繊毛があるなら、それは“ユキドケグサ”です。解熱剤の材料になります』
「そ、それだ!! じゃあこれ、薬にできる?!」
『えぇ。手順を説明するので、その通りやってみてください』
葉を摘み、火で炙り、少量の水と一緒に擦り混ぜる。
青臭さに思わず顔をしかめるが、アキは懸命に調合に勤しむ。
『――出来上がったら、ひとつまみ分をハイネさんに飲ませてあげてください。
安静にしていれば、数時間ほどで熱がひいてきます』
「ありがとう!! た、助かった……」
『いえいえ。
……ふふ、手際がいい方ですね。将来は学者さんですか?』
「どうかな。でも、医者になるのは、いいかも」
少し落ち着いてきたハイネを見つめるアキの顔がようやくホッと緩む。
『ハイネさんのこと、宜しくお願いしますね。小さな“騎士”さん。
何かあったら遠慮なく聞いてください』
「べ、別にナイトとか、そういうんじゃ……」
ううん、とハイネの声が聞こえた。
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