「い、たたた……
な、なに? なんでぼく達、落ちたの?!」

薄暗い森の中でアキは起き上がる。
見上げると、さっきまで自分達がいたはずの場所が絶壁の先に見えた。

「ハイネ、どうしよう?!
ぼくら、落ち……」

アキは仰天した。
ハイネが左脚から血を流して倒れている。

「ハイネ?!」

「うう~……。アキくん、怪我ない?」

「な、何言って……自分の心配を先にしろよ!!」

アキには外傷の知識はあまりないが、見て分かる通りの深い傷が出来ている。
雪崩れの衝撃で鋭利な岩に当たってしまったようだ。

「アカン……痛すぎて動けへんわ……。
アキくんは、無事やな?
何とかして、ユーファとトキちゃんのとこに……」

「む、無理だよ、だってこんなに落ちて……」

アキが指差す先を見上げたハイネは力なく笑う。

「と、とにかく、止血しなくちゃ!!
ハイネ、どうやればいいの? ぼくがやってあげるから!!」

「あ、ありがと……。
適当な布で、ここを縛ってほしくて……」

アキは身の回りを確認する。
ここにあるのは自分の荷物、ハイネの荷物、ユーファの外套。
鞄を漁るが、あまり役に立ちそうなものがない。
仕方なくアキは、ユーファの外套の一部を無理やり引き裂き、ハイネに言われた場所を縛る。

「それから? どうすればいい?」

「火……を……」

「ハイネ?!」

返事がない。
アキが慌ててハイネの頬をぺちぺちと叩くと、その冷え切った肌に思わず手を引っ込める。

「あ、あっためなきゃ……。で、でもどうやって……」

そうだ。確か授業でやったぞ。
木があれば摩擦で火起こしできるはず。――やってみよう。

アキは落ちていた小枝をかき集め、両手で木と木を擦り合わせる。
ひたすら無心で手を動かすが、一向に変化が見られない。

(雪で湿ってるから、火が付かないんだ……)

必死で小枝をさすっていたアキの両手に無数の傷がついている。
どこかに乾いた燃えやすいものがあれば……――

アキははっとしてから、自分の鞄に手を突っ込む。
彼が手に取ったのは、父から譲り受けた宝物の地図。

ずっと欲しかったんだ。でも、父さんが「もっと大人になったら」って言って、くれなかったもの。
この旅に送り出してくれた時に託してくれたもの。



――ハイネの命がかかってるんだ!

きっとその判断は、大人への一歩だったに違いない。
自分の宝物を手放してでも、友達を助けたくて。



地図の一部を破り、木と木の間に挟んで擦る。
目論み通り、細く白い煙の筋が立ち上った。泣きそうなくらい嬉しくて。

ハイネが意識を失くして横たわる傍に集めてきた薪を置き、火種をそこへ託す。




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