アキの小柄な体を布袋に押し込んで担ぎ上げたユーファは、ハイネやトキと共に王国所属の輸送船へと乗り込む。
船の中には老若男女様々な人々が乗っており、皆総じて戦線へと向かう志願兵だった。

すれ違い様に人々の会話に耳をすませれば、かつてはこちらの国でもよく話題に上っていたリシアを助け出そうと意気込む男達、いざ志願したはいいものの戦場に身を投じる不安に怯える者など、多種多様だ。
なるべく人目に触れない場所を探して、船底の倉庫区画付近でユーファは“貨物”を下ろす。

「ぷはっ!! あぁ、窒息するかと思った!!」

「しっ。静かにせぇ。見つかったら面倒やで」

4人は身を潜めるように体を寄せる。

「ねぇ、ユーファ。戦場ってどんなとこなん?」

ハイネが小声で聞いてみると、彼は目を細めた。

――こんな横顔、おとんが昔話する時によく見てたなぁ。



「どんなって、どうしようもないとこや。
あの場では理性なんか吹っ飛ぶ。全員、生きるか死ぬかしか考えとらん。獣みたいにな」

「ユーファさんは戦争に行った事があるのですか……?」

「あるで。それはもう、何回も」

3人の視線がユーファに集中する。



「行ったさ。何度も何度も。お袋の言葉を伝えるため、親父の駒になるため、――アトリに、あんな地獄を見せないため。
アトリが行くとこを横取りして、俺が馬を駆った事もある。おかげで俺は戦争バカみたいな目で見られたさ。
俺は別に王位を継ぎたいわけやない。むしろ、王位はアトリにこそ相応しい。
あいつは気高くて賢い。人望もある。みすみす戦場で穢していい男じゃのうて。
だったら俺が代わりに行ったろ、ってな。俺は戦いしか能がない。俺から戦いを奪ったら、何も残らん」

「……怖くないの?」

彼の膝の上にいるアキは、その顔を見上げる。

「怖いで。眠れなくなるほどにな。まぁでも、俺は椅子に座って地図と駒を見てるより、ホンモノの風景を見て剣を振った方が性に合っとる。
わかるやろ? 俺は行儀よく座って誰かを動かすオツムがないんや。くくっ」




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