「……そうか。わかった。下がれ」
部下の報告を聞いた孤高の王――コーネルは、執務室の椅子に腰掛け足を組む。
傍らに控える老執事は眉尻を下げて主に囁く。
「まさか、徴兵に対して自害して抗議とは……。やはりああいった連中の考えは理解できませんな」
「あの男が素直に俺の言葉に従うとは思えん。奴は戦そのものを嫌っていたからな。
むしろ、娘もいない今、何を守るために戦線に立つ決意をするのかといったところだった。
俺の勅命に対してどう出るか、少し試したかっただけさ」
「陛下、如何なさるおつもりで?
『あの賢者』を戦線に出せないとなると、もはや同盟国を頼るしか……」
「ジストに泣きつけと?
息子を助けてほしいと縋ってきたあいつを突っぱねたこの国がか?
……あぁそうさ。あいつの事だ。喜んで協力してくれるだろうよ。
だが……これは自国の問題だ。緑の国まで巻き込むのは邪道というものだ」
はぁ、と深い溜息を吐いたコーネルは、机の上に積み上げられた嘆願書を手にする。
「『身内の1人など捨て置け。王は大勢の国民の生活を守る義務がある』、か。
言ってくれる」
「そのような愚かな手紙など、陛下にお渡しするまでもない。
差出人の外道はどこの誰です? 捕まえて罰して……」
「いいや。これでいい。正論だからな。
国王とは人に非ず、だ。少を切り捨て、多を守る。それでこそ『国王』だ。
だが俺は……今この時にリシアを救わなければ、一生後悔する。
その後悔が青の国を破綻させる引き金になろう。
自分の事は、自分が一番よく知っている……」
「陛下……」
冷静を装いつつ、内には獣のような本性を抱え込んでいる国王。
老執事は、今すぐにでも噛み付いてやりたいと白い歯を覗かせる主に心配そうな目を向ける。
青の国は、希望に満ちた楽園だったはずなのだ。
遥か北の地で、十字架を折った男が王冠を戴くまでは。
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