――アンリ先生、カイヤ先生を守ったって。


切な願いが頭に響いてくる。
だけど、体が動かない。

「アンリ!! しっかりして、アンリ!!!」

くぐもった聴覚が泣き叫ぶ声を捉える。
もはや痛みも感じない。自分の胸元から赤い海が広がるのを、見つめることしかできない。



「やめて、やめてくださっ、アクロ……さん……!!
私、私……あげますから、持っているもの、全部、アナタに……!!」

足が震える。
カイヤは見た事があるのだ。
同じように、こうしてその剣で胸を貫かれた『あの人』を。
その先の事は……――考えたくない。



「俺に渡すものに、貴様の命は含まれているのか?」

赤い雫が滴る剣から目を離せないカイヤは、唇を噛み締める。

――死ぬ? 私が?

――殺されるの?

――今目の前で倒れている大切な人の身代わりに、この命を差し出す勇気も出ない?

――嫌だ。

――怖い。

――怖い怖い怖い。

――怖いこわいこわいコワイコワイ……



「ちょっと我が強すぎんじゃねえの?
女はがっつくと逃げる生き物なんだぜ?」

この声、は……――




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