「何故俺がここにいるのか、という顔をしているな、小娘」

剣を持つ男は薄灰色の瞳で見透かすようにカイヤを見やる。

「だって、あなたは消えたはず……!!」

「そう。『ここに来た俺』はもう消えた。今の俺は『別の世界』から来た。
貴様を殺し、その全てを奪うために」

「わ、私から何を盗ろうって言うんですか?!
私を殺そうがどうしようが、『姫様』は帰ってきませんよ!!」

「そうだな。『この世界』には用はない。
もうここは完結した。『俺』がいる。『あいつ』がいる。それでいい」

「じゃあなんで……!!」

「貴様なら知っているだろう?
無数に存在する『別の歴史』のことは」

「そんなの……!!」

「ならば、わかるだろう?
『全ての歴史を完結させる』……そのために俺はここにいる」

この人は、一体何を……――



「誰だか知りゃしませんがねぇ、とんだエゴイストですよ貴方は。
確かにね、貴方が望むものがここにはあるんでしょうよ。
『過去と未来に干渉する力』がね」

アンリの言葉に、カイヤは思わず傍らの木箱に目をやる。

「……それってつまり、アクロさん……
『全ての歴史で姫様を生かす』ってこと……ですか?」

「そうだ」

アクロは冷たくそう頷き、そしてその唇が弧を描く。

「俺には『現時点』の猶予しかない。そうさ、過去にも未来にも行けない。
『あいつ』の死の先に俺の未来はない。『あいつ』との出会い以前の過去もない。
だから俺は時の流れを掌握し、すべての歴史の『あいつ』を生かす。過去と未来を行き渡り、あいつが生きられる世界を用意する。
俺の願いは『あいつ』が死ぬことのない世界をつくること。
貴様の知識と技術は俺が求めていたものだ。だから、奪う」

「……な、何を言っていますの、このコーネル様みたいな不法侵入者は……?」

「貴様から死ぬか? マオリ」

切っ先がマオリに突き付けられる。
すかさずアンリがナイフでそれを弾く。

「未来の女房に手出しされても困るのですが……。
こんな幻みたいな人なら、殺してしまっても、罪には問われませんよね?」

「アンリ、せんせ……」

「『俺』を殺せるのは、『俺』だけだ」

霧のように消えたアクロは、見えない切っ先をアンリに向けていた。




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