「グレーダ、ここにいたのね。
コーネル陛下がお呼びよ」

「は?」

相変わらず城の中庭で箒の素振りをしていたメイド――グレーダは、同僚に声を掛けられてあからさまに不満そうな声を出す。

「至急、執務室に来るようにって。
あなた、また何かしたの? 陛下のダンベルをまた勝手にくすねたとか?」

「……そうだったっけ?」

まあいいや、とグレーダはボリボリと頭を掻いて執務室へ向かう。





「ちゃーっす、お呼びで?」

「遅い。何分待たせる気だ貴様」

「おー怖。これだから婚期逃すんすよ」

飛んできた万年筆がグレーダの額に当たる。

「御託はいい。貴様、最近確か『伝導』の魔法を覚えたと言っていたな?」

伝導の魔法とは、遠く離れた地にいる相手と言葉を交わす、召喚術の応用技だ。
そう、ちょうど、ハイネとカイヤが時空を超えて会話したように。

「え? えぇ、まぁ……。
それできれば仕事サボれるかなって……」

「今ここでそれを使えと言ったら、できるか?」

グレーダは目を白黒させる。

「んな事言われても、自分が連絡できるのなんて、まだ親父くらいなもんすよ?
メイド長とかに連絡できるくらいになったら便利かもっすけど」

「そうだ。あのクズ賢者でいい。……できるか?」

「特別手当が出るなら、吝かではないっすね」

「……チッ。わかった。繋げろ。用件は俺から話す」

「ほっほー。物分かりのいい主は嫌いじゃないっすよ。
どんな用件か知らないっすけど、金だけは貸さない方が身のためかと」

「そんな事、百も承知だ」

グレーダは手のひら大の石をポケットから取り出し、魔力を込める。
彼女の魔力に反応して緑色に光ったその石から、声が聞こえてきた。

『よぉ、俺の可愛い娘っ子じゃねぇか。あれ、お前何番目の娘だっけ?』

「ふざけんな死ねクソ親父」

「いいから、それを貸せグレーダ!」

コーネルはグレーダから石を引ったくり、声をかける。

「俺だ。わかるか、クズ賢者。コーネル・ヴィント・オリゾンテだ。
今どこにいる?」

『あ? 今?
どこってお前……白の国の魔法学校だが?
ちょうど喫煙所で新任の美人を口説いてるとこでな、もうちょっとで宿まで持ちこめ……』

「今すぐこっちへ来い。今すぐだ。魔力使い切ってでもカレイドヴルフまで来い。急ぎの用事だ」

『オイオイ……俺は何でも屋じゃねぇんだぞ~?
まぁ、特別手当が出るなら、吝かではないな?』

「っだー!! もう!! 煩いわかった!! さっさと来い!!!」

石をグレーダにつき返すと、コーネルは椅子にドサリと座り込む。

「親父なんて呼んでどーすんです?
カスの役にも立たないのに」

「嫌な予感がしたから、念のため呼び寄せただけだ。
お前はこれ以上詮索しなくていい。
仕事に戻れ」

「で、特別手当は?」

「次の給料で渡すからおとなしく待っておけ、阿呆!!」




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