それは、ちょうどハイネとカイヤが久方ぶりに声を交わした頃だったか。
カイヤがいる学校のすぐそばに、青の国の中心であるカレイドヴルフ城がある。
終わりの見えない書類の山にうんざりと溜息を吐いた『国王』は、気晴らしに窓を開け放ち、懐から煙草を一本取り出す。
火をつけて一口吸えば、遣る瀬無いモヤが肺の中に充満した。
――陛下、つかぬ事をお聞きしますが。
――何故そのような『安物』の味をお好みで?
――こんな安いものを、わざわざ赤の国から取り寄せるだなんて。
以前、父の代から仕えている老執事にそう尋ねられ、『彼』は一言「別に意味はない」と答えた。
それならばもっと質のいい葉を巻けばいいものを、と提案されるが、頷く事はなかった。
――早死にする味だから、なんて理由、誰に言えようか。
窓の外へとたゆたう煙の中に、この味を噛み締めて立っていた懐かしい後ろ姿が見えるような気がして。
青の国は春と夏、秋と冬の間に、2週間ほどの規模で、雨期と呼ばれる悪天候の時期がくる。
今まさに、すぐそこまで季節の変わり目の報せが届いていた。
いつもは晴れやかな夏空の王都も、今日は重く渦巻いている。
しかし、何だかやけに雲が厚い。
嵐でも来そうなこの空模様、どこかで見た事があるような……――
「……っつ?!」
覚えのある恨めしい『頭痛』が、若き国王にのしかかる。
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