『あ、の……』

半信半疑といった調子のカイヤの声がする。
無意識にクレイズは胸に当てた手を握りしめていた。
心臓が押し潰されそうな、懐かしくも切ない声。
――同じ気持ちを、きっとカイヤも抱いているはず。



「カイヤ……僕だよ」

『ひっ!?
え、あ、ちょっと……すみません……あの……心の準備が……』

「いいよ、楽にして。聞き流してくれていいから」

『……待って、博士、あのっ!!』

「博士、か」

クレイズは苦笑いを漏らした。

「そっちでは、『お父さん』って呼んでないのかい?
偉く他人行儀だな」

『う……、すみません……。
えっと、私、実親がいなくて、博士は……義理の父、なので……』

「そっか。うん。そんな世界もあるわけだ。
こことそっちがこんなに遠い理由、少しわかった気がする」

『博士、ありがとうございます。
ハイネさんを巻きこんでしまったの、紛れもなく私なんです。
助けてもらって、こうやって安否を知る手段も作ってくれて……』

「全部君がやった事だよ。
僕はただ、抜けていた部分を補強しただけ。
そっちでは自力で作り上げたんだろう?
大したものだよ」

『まぁ……わりとアンリ先生に手伝ってもらってようやく、ですけどね……』

とても穏やかな時間。
なんの目的もない雑談が、こんなにも懐かしいなんて。

「カイヤ、体に気をつけるんだよ。
隣の部屋で眠り呆けている馬鹿な僕なんかに、命を懸けたりしちゃ駄目だ。
君は君の人生を生きないと」

『……いえ。私は絶対、博士を……、“お父さん”を助けます。絶対に。
さっき言われた通り、私はこっちの博士をお父さんと呼ぶまで、絶対諦めません。
意味はないかもしれないけど……私の気持ち、知っておいてください』

同一でも、別人。辿った歴史も、これからの運命も違う。
なのに、何故か心が交差する。

「……ありがとうね。きっと、そっちの僕も……『もう一度君に会いたい』って、夢に見ているだろうから」

『はい。博士も……元気でいてくださいね。
ちゃんと掃除してますか? ごはん食べてますか?
面倒だからって机に突っ伏して寝ちゃ駄目ですよ。風邪引きますから』

「あぁ、耳が痛いな。
まぁでも、僕は大丈夫だから。
責任を持って、君の大切な教え子を送り出させてもらうよ」

『お願いします。ありがとうございます。……大好きですよ、お父さん』




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