時を遡ること、ひと月ほど。

――“カイヤ”は今までの人生で最大級の悲鳴を上げていた。



「なんで?! どうして?! こんなはずじゃなかったのに!!」

忽然と姿を消した大切な教え子。
頭に装着する器材だけが、虚しく宙を漕いでいる。



実験は失敗した。それも、予想だにしなかった方向に。

その原因を突き止めたくとも、今のカイヤはあらゆる現状の理解を拒絶するパニック状態に陥っている。
取り乱し、答える声のない『何故』を繰り返す。

世紀末のような悲鳴を聞いて驚いたアンリが研究室に駆け込んでくると、そこには何もかもが真っ白になったようなカイヤが放心して座っていた。



「……なるほど。それで、装置の暴走で、突如ハイネさんが消えた、と」

テーブルの上の観測器をしげしげと観察しながらアンリは状況を飲み込む。

「まぁ素直に予想すれば、ハイネさんはその“狂った座標”に誤って体ごと飛んでしまったと結論付ける他にありませんが……」

「もうダメです……。なけなしの威勢でハイネさんの安全を約束したのに、こんな事になってしまうなんて……。
私生きてる意味ない……」

「カイヤさん、冷静に。やってしまったもんは仕方ないです。とにかくハイネさんを助けないと」

「……アンリ先生、怒らないんですね。こんな装置見せたら、どつかれるかと……」

「カイヤさんッ!!」

ダンッ、と拳が卓上に叩きつけられる。
カイヤは座ったまま飛び跳ねた。

「状況わかってます?
もう子供じゃないんだから、そんな生産性のない思考で時間を無駄にしないでください。
僕が貴女をどつく? 怒ってどうするんです。
その1分、1秒、たった一瞬の無駄で、もしハイネさんの生死が分かたれたら、どう責任を取るつもりですか?」

見開いた青い瞳が少し潤む。
ぶるぶると頭を振ったカイヤは、両手でバシッと自らの頬を叩いた。

「……ごめんなさい。あまりの状況に混乱していたみたいです。
とにかく、ハイネさんが今どこにいるのかの特定を急ぎます。
恥を忍んで、アンリ先生にも協力してほしいです」

「えぇ、もちろん。まずはこの装置の仕組みから教えてくださいます?
いかんせん、こんなもの初見ですから」

「はい。まずは動力の説明から……」

カイヤは仕舞い込んでいた設計図を取り出し、アンリに差し出す。





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