分解した機械と設計図を交互に睨むハイネは、漂ってきた香ばしい香りに思わず音を上げる。

「あーん、いいニオイ!! おなかすいた!!
トキちゃんの魚料理の香りや~!!」

「休憩していいよ。ずっと座りっぱなしだったでしょ、君」

「クレイズ先生も休憩しよ、ね?
トキちゃんのごはん、ほんま旨いんやで!!」

「僕はいいよ。少食だし、野菜しか食べないし」

「だーめ!! だからそんな痩せてるんやろー!!
ちゃんと食べなきゃ頭働かんって、うちかて知っとるよー」

「あのねぇ……」

ひょこりとトキが顔を出す。

「ごめんなさい、台所借りてしまって。
クレイズさん、すごい偏食家だって昔父さんに聞いたので、野菜の煮物も作ったんです。
それだけでも召し上がっていただければなと」

「アンリ君……なんで自分の娘に僕の食事情まで話してんの……」

呆れたように溜息を吐く彼だが、ハイネに引っ張られて渋々ついてきた。



「「いっただきまーす!!!」」

すっかり腹を空かせていたハイネとユーファはお互いの持ち分を取り合うかのように食いつき、横からアキがユーファのものをくすねている。
焼き魚や煮物、玉子焼き、味噌汁……――素朴ながらも、トキとアキの故郷の食事がそのまま再現されていた。
海辺の国であるここカレイドヴルフで味わう魚は、今まで食べた事のあるものの中でも特に質が良かった。

騒がしく食事を堪能している3人の若者と、それを微笑んで見つめているトキ。
こんなに賑やかな食卓は、クレイズの長い人生でも初めてかもしれない。
何となく一口食べてみた煮物は、その昔、アンリが作って差し入れてくれた惣菜と同じ味がした。


――懐かしい。


あの頃はまだ、カイヤがいた。
教師をして、好きな研究をして、カイヤがいて、アンリもいて。



今思い返せば、一番穏やかな日々だったかもしれない。
『あんな形』で終わってしまうなんて、思っていなかったけれど。




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