この世界にある『世界線観測器』は、20年もの間、一度も使われることなくただ静かに眠っていた。
やはり機械そのものが老朽化し、起動すらままならない。
ハイネはクレイズと共に回路を組み直すことにし、部品調達は仲間達に協力を仰ぐ。
「ま、単細胞な俺達ができることなんざこれくらいやな」
「ちょっと! お前とぼくを一緒にしないでほしいんだけど」
「そうです、アキは貴方よりもずっと賢いのですよ」
「ほんま手厳しいわ~!」
カレイドヴルフ王都を歩き回り、ハイネから渡されたメモを眺めつつ商品を物色する。
「にしてもなぁ。物騒な国になったもんや」
独り言のようなユーファの言葉に姉弟が首を傾げると、そっと耳打ちした。
「お前らの後ろにおる男。ありゃ騎士団の連中や。見てくれは一般人やけど、服の下に武器隠しとる」
思わず冷や汗をかく。一見何の変哲もない通行人だ。
いつになく鋭く朱の瞳を光らせるユーファは、トキとアキを連れ立って次の店へと移る。
「覆面の警備をおいているなんて……やっぱり白の国との関係悪化が原因なんでしょうか」
「恐らくはな。王都に警戒を敷くなんざ、思ったよりも行くとこまで行ってんのかもしれん」
むむむ、とアキは足下で不服そうにしている。
「なんだよ、急にそれっぽい話しちゃってさ。
どう見たってただの一般人じゃん。テキトー言ってんじゃないの?」
「アキ坊、教えてやっからよぉ見てみろ?」
しゃがんだユーファはアキに囁く。
「まずもって、こんな南国であの上着は違和感がある。造りからしてありゃ緑の国の流行服やな。うちの国の流行りは上品かつ着こなしの軽い外套。剣や手斧なんかを隠すには丁度いい。
そんで、次は歩き方。ほら、見てみ? 足の運びにいくらか力が入っとる。重いモン背負ってる時の動きやな。
どや、これでもテキトー言うか?」
こっそり目で追っていた覆面の警備兵達は街角を曲がり、姿が見えなくなる。
何も言えなくなったアキは詰まらなさそうにそっぽを向いた。
「ユーファさん、一瞬見ただけでそこまでわかるなんて……」
「ふふん。見直したか、トキ?」
「そうですね……。マイナスがゼロになったくらいの信用度でしょうか」
「お、お前なぁ……」
気を取り直してハイネのメモにもう一度目を通す。
金具や粘着剤などを選んでいる途中で、トキはあるものを手に取った。
「ん、便箋か?」
「はい。そろそろ故郷の両親にお手紙を書こうかと。無事に青の国に入れたことですし。
アキも何を書くか考えておいてくださいね」
「えー、ぼくはいいよ。姉ちゃん書いといてよ。元気だよって、ついでに」
「アキ坊、こーいうんは、一言でも自筆で書いた方が喜ぶもんなんやで、親ってもんはな」
「ちぇっ。何だよ。ユーファまで知った風に言っちゃって……」
一通りの買い物を済ませた頃には日が暮れていた。
夕食の材料も買い集め、3人は学校へと戻る。
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