テーブルの上に資料となる書類や本が並べられる。

「ハイネ君。君が望むように、元の世界へ帰るための技術はこの世界にはない。ただ、“まだ”ないというだけ。
世界の移動……正確には歴史と時系列の移動をこなすには、君の肉体を転移させる膨大な魔力が必要だ。
それだけの魔力を集めるには、相応の時間を消費する。誰かが死ぬ覚悟を決めて全ての魔力を君に託さない限りはね。
ただ、君がさっき言っていたように、『連絡をするだけ』ならより迅速に行えるかもしれない。
君の声を別の世界に届ける、ただそれだけであれば、この懐中時計の中にあるカイヤの最期の魔力だけでも足りるかも」

「お願いします……! カイヤ先生、これで助けられるよね?」

「……触れないで置いておいた“カイヤの遺品”を使えば、もしかしたらね」

クレイズはおもむろに席を立つと、傍らにそっと置いてあった古い木箱の蓋を開ける。
この箱、見覚えがある。

――まさか!

「こ、これ観測器や!!
この世界にもあったんか!!」

ハイネは身を乗り出す。
木箱の中には、蓄音機のような形状の機械が静かに収まっていた。

「君はこれを知っているのか」

「はい! これ使って、この世界に来たんです。
使って、というか、使っている最中に事故があって……って感じですけど……」

「そうだったのか……。
恨めしくて壊そうかと思った事もあったけど、取っておいてよかったかな。
でもかれこれ20年は手入れしてないから、ちゃんと動くかどうか」

テーブルの上に観測器が置かれる。
なるほど、ところどころ部品が錆びついている。

「これは、指定の座標にある世界に五感を飛ばす機械だ。
ただ、五感を飛ばしたところで、受け取る側の世界にも同じような役目を果たす機械がなければ『伝達』ができない。
でもハイネ君がこれを見た事があると言うなら、同じような装置が君の世界にあるという事。
向こうに声を掛けるくらいの事はできるかもしれないけど……いかんせん、ハイネ君の世界がある座標がわからない。
手紙と同じだよ。宛先がわからなければ送れない。当たり前だけどね」

「その座標って、どうやったらわかるもんなんですか……?
うち、ここへ来る前の一瞬に、ぐちゃぐちゃーって乱れる数字を見た覚えがあるだけで……」

「その数字、1つでも記憶にあるのなら、いくらか観測する先の範囲を絞れるかもしれない。
……どうする? やってみる?」

「やります!!」

「そう。じゃあ1つ、僕が協力する代わりにお願いをしてもいいかな」

「はい! なんでも!」

クレイズは、少しだけ微笑んだ。

「もし成功したら、少しだけ、君の世界のカイヤと話をしてみたい」

迷う余地などない。
ハイネは大きく頷いた。





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