あと数センチずれていたら、首が飛んでいた。
あまりの衝撃に、兵士は白目をむいて気絶する。
彼が倒れたところで、斧の先が引っ込み、――扉がドカン!と蹴り開けられた。

「ごめんなさい、手が滑りました。
お久しぶりです、シンハ伯父様。10年ぶりくらいでしょうか」

『修羅』という言葉を貼りつけたような顔のトキが、蹴破って倒れた扉の上に立つ。
勝利を確信したような笑顔のアキ、そして突然の出来事に茫然とするシンハ。

「弟がご迷惑をおかけしました。
お礼も兼ねて、ご挨拶に参りました」

「な……」

一歩、二歩、とゆっくりトキは近づいてくる。――斧を片手にしたまま。

「や、やめろ、私に近づくな……」

「……あら、そんなわけには。
母の教えでは、お世話になった方へは礼儀を尽くす事、と。
あぁ、そうそう、これは私が育った村での教えなのですが、せっかくですので伯父様にもお伝えしておきます。
どうぞ、心のこもったお礼だと思って、お受け取りくださいませ」

ブンッ、と斧が振りかぶられる。

「“芽の出ない種は早めに間引いておくように”、です」

「ぎゃあああああッッッ!!!!!!」

真っ青な顔で逃げ出したアキと、廊下で震え上がっていたユーファは思わず抱き合う。
ハイネは顔を覆った手の隙間から、トキの『礼儀』を見つめた。

「あ~……ありゃアカンやつや。女のうちでもなんかお腹痛くなる……」

「お、俺、絶対浮気せぇへんようにしよ……」

「お、お前、なに勝手に姉ちゃん嫁にする前提で考えてんだよ……」




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