3時間ほど経った頃に、やたらと生気に満ちたシンハがようやくアキを執務室に呼んだ。

「直接会うのは初めてだったか、アキ。
私こそが、この輝ける水と光の楽園、ニヴィアンを治める主である!」

「もう聞いた。答えはノーだから、早くぼくを解放して」

ズッ、と思わずシンハの体勢が崩れる。

「待ちたまえよ。そうだな、うむ、まだ君は幼いあまりこの私の後継になるという名誉のありがたみがわからないのだな?!」

「やだよ、こんなセンスない街の領主なんて。
おじさん、ホントにキレイだと思ってこの街をあんな風にしてるの?
まるでケバケバに化粧したおばちゃんみたいな街じゃん。だっさい。
あとあの石像、なに? あれおじさん? 鏡見てきた方がいいよ」

バキ、と万年筆が折られた。

「こ、この生意気な……ッ!!!
なんだ貴様は?! 何様のつもりだ?!」

「母さんにタンマリ聞いたよ。それこそ絵本の読み聞かせよりもね。
おじさん、昔ぼくの母さんを悪いヤツに売って逃げたことがあるんだって?
クズだね。クズ。そんな人の息子になれって? ムリムリ。
父さんより頭のいい人だったら考えたけど、それはなさそうだよね。うん。ありえなさそう。
ってことで、ぼく帰るから。せいぜいおじさんはお金で買ったキレイなお姉さんと楽しく暮らせば?」

ダンッ、と拳を叩きつけてシンハが立ち上がる。

「いい度胸だ、小僧。大人に刃向うとどうなるか教えてやろう。
おいそこの三下、この小僧の首を撥ねろ」

一瞬でアキの顔が凍りつく。
後ろで控えていた兵が肩を跳ねた。

「じ、自分がですか?」

「他に誰がいる」

「し、しかし、いくらなんでも……!
マオリ様のお子様を手にかけるなど、自分には……」

「そうか、ならまず貴様の首を撥ねる必要がありそうだな」

壁に飾られていた剣を手にしたシンハは、鞘から刃を引き抜く。

「そそそそ、そんな、慈悲を、慈悲を――ッ!!」

「この口先ばかりのガキを殺したら、不問にしてやる」

兵士がチラリとアキを見る。
つい母譲りの話術を解放してしまった自分を心底後悔する少年が、小さな両手で破裂しそうな鼓動を抑え込もうとしている。
この子供のために、自分の首を落とせるか?
そんなの……――



兵士は剣を引き抜いた。
フラフラとアキに近づく。

「す、すまない……。恨まないでくれ……。自分にも妻と子供が……」

――バキィッ!!!

扉の近くにいたその兵の肩すれすれに、突然、大斧の刃が突き出した。




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