一体、自分の身に何が起こっているのか。
ミストルテインで放り込まれた牢屋とは違い、どこか高級感の漂う真四角の小部屋。
視界が奪われてから今までの間の記憶が途切れている。気絶でもしていたのだろうか。
「姉ちゃん?」
とりあえず、呼びかけてみる。返事はない。
「ハイネ? ユーファ?」
やはり応えはない。
急に心細くなってくる。
――なんで? ここどこ?!
座っているソファはふかふかだ。その感触だけが、とりあえず命の危険はなさそうだと確信させてくれる。
警戒しつつしばらく時間を潰していると、小さくノック音が聞こえた。
「ごめんなさい、失礼しますね」
女性の声だ。
身を強張らせていると、遠慮がちに入ってきたのは拍子抜けなほど普通の淑女だった。
ふんわりとした白金の長い髪、桃色の瞳、華奢な背格好……――
いわゆる、『貴婦人』というやつだ。
深い赤紫のドレス姿のその女性は、アキの前のソファにそっと腰を下ろす。
「ユーディアと申します。ニヴィアン公シンハ様の妻です。
突然こんな事になってしまってごめんなさい」
心底申し訳なさそうに眉尻を下げる彼女。
――そういえば、緑の国の使者の男性と顔が良く似ている、ような。
彼女の言葉で、アキは今の居場所が先程とほとんど変わりない事を知って安堵する。
どこか遠方の地だったらどうしようかと不安になっていたところだ。
「アキ君……と、言うのです、よね?
シンハ様の、甥の……」
コクリ、と頷くと、ユーディアは小ぶりな手を自らの胸に当てる。
「このお屋敷の人が、あなたとあなたのお姉さんの事を見つけて、シンハ様に報告したのです。
そうしたら、アキ君を連れてくるようにシンハ様は命じられた、と」
「ぼくだけ? なんで?」
それは、と少し躊躇ってから、ユーディアは告げる。
「……シンハ様には、後継となる子供がいません。このユーディアが、子供を産む事ができない体だから……。
それで、シンハ様の妹君、マオリ様の子であり男の子であるあなたを、養子にしたいと……」
「は?! ぼくが?!」
素っ頓狂な声が上がる。
「無理もないですね。これはシンハ様が独断で決められた事。
もちろんあなたの意思も、ひいてはマオリ様とその旦那様のご意見も度外視。
身勝手な行動なのです」
当たり前とばかりにアキは首を横に振る。
「絶対やだよ、ぼく。こんなギラギラの街の領主になるなんて、絶対やだ!
ぼくはいつか、父さんみたいな学者になるんだ。
お金も街も身分も、いらない!!」
ピシャリと言い切り、アキは立ち上がる。
「シンハおじさんに直接言ってやるよ!! どこ?!」
「あ……シンハ様は今、その、お取込み中で……」
気まずそうにユーディアは目を逸らす。
「……面目ありません……。妻としての時間も提供できない、こんなユーディアなんて……」
アキにはよくわからないが、どうやらシンハは自分の時間に忙しいらしい。
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