「アキく――――ん!!」

「アキ坊――――ッ!!」

ニヴィアンの街に少年の名前を呼ぶ声が響く。



「そんな……どうして……アキ……!!」

片方だけの小さな靴を握りしめるトキは唇を震わせている。

「トキ、ほんまに悪かった!! 俺が全部悪い!!
すっかり油断しとってん、アキから目を離したばっかりに……!!」

「謝るのは後にしてや、ユーファ!!
とにかく、暗くなる前にアキくん見つけなきゃ……!!」



アキは突然、いなくなってしまった。
ユーファと買い出しに出た後、彼が目を離した一瞬の隙に忽然と。

瞬時にとんでもない事が起きたと気付いたユーファは、宿屋で待っていたハイネとトキに緊急事態だと知らせに戻る。
一瞬で青ざめたトキが弟を探しに宿を飛び出し、その後ろを慌ててハイネとユーファが追いかけた。
街中を探し回り、道行く人にも尋ねたが、これといった情報は掴めない。
あまりの必死な3人組を見かねた街の人が手伝ってくれもしたのだが、進展のないまま太陽は沈んでいく。



道端のベンチですっかり弱っている3人。
彼女らの前を通った1人の女性が、立ち止まる。

「どうしたのよ、君達。何かあった? 死にそうな顔して」

ハイネが顔を上げ、そしてぎょっとした。

「え?! リマ姉ちゃん?!」

緑髪碧眼のその女性は、ぱちぱちと瞬きをした。





「あたしはペトラ。情報屋という名の傭兵よ。
ラリマーはあたしの一番上の姉さんの名前だわ。
姉さんの知り合いなの、君?」

見た感じでは、30代後半くらいの女性だろうか。
ハイネが良く知っているラリマーと顔立ちがとても良く似ているが、ペトラと名乗るこの女性は髪を短めに切り揃えている。

「ええっと、その昔お世話になって……?
って、そんな事はえぇんや!
ペトラさん、情報屋って事は、うちらに情報売ってくれる?!」

「いいわよ。お客さんならいつでも大歓迎。何の情報が欲しいの?」

小さな手帳を開きながらペトラは尋ねてきた。
完全に落ち込んでしまったトキの代わりに、ユーファが答える。

「さっき、誘拐されてもうた坊主がおって。
7歳で、背はこんくらいで、……あぁ、この娘がそいつの姉貴なんやけど」

「人攫い? 珍しいわね、こんな都会の真ん中で。
でもついさっきの出来事じゃ、目ぼしい情報はないわね。
1日待ってくれれば何か仕入れてこられると思うけど、どう?」

「アキくん、危険な目に合ってへんやろか……。
それが心配で心配で」

「そうねぇ……それじゃあ」

ペトラは指を3本立てた。

「3時間。3時間待ってて。奥の手を使うわ。高くつくけど如何かしら?」

「金なら俺がいくらでも払う」

「トキちゃん、それでいい?」

ハイネに背をさすられていたトキは小さく頷く。

「決まりね。ふふっ、まぁお姉さんに任せておきなさい♪」

ペトラはすぐに街の雑踏の中へ姿を消す。




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