「シンハ様! ご報告です!」
慌ててやってきた兵士が主の前に立ち敬礼する。
机の上に麗しい女性達の写真を広げていた男――シンハは、切れ長の瞳で一瞥する。
「なんだ」
「あれは間違いありません!!
マオリ様のご息女、ご子息!! トキ様とアキ様です!!
先程このニヴィアンに到着した旅人の一味の中にお二方の姿が!!」
「ほほう? それは本当だな?」
シンハはニヤニヤと笑う。
「はっ。如何なさいますか?!」
豪奢な椅子に堂々と背を預け、まるで何かを企むような顔つきでシンハは空を見つめる。
「下の息子は……今年で7、か。ちょうどいい頃合いだな。
――連れてこい! どんな手段を使ってでもだ!」
「はっ?! えっ?!」
「“向こう”は2人いるんだろう?
1人くらい“こちら”に渡してもらっても良いではないか。
娘の方は母親に顔が似過ぎていて腹立たしい。息子の方なら問題ない」
「は、ははぁ……」
「とっとと行け!
せっかくの機会を無駄にしたら首を撥ねるぞ!!」
「は、はいいぃ!! 仰せのままに!!!」
兵士は慌てて部屋を飛び出していく。
屋敷内の慌ただしい気配に、子犬を抱いた1人の婦人が立ち止まる。
「……今度は何をなさるおつもりなのです?」
すれ違い様に1人の兵を捕まえて尋ねると、今し方下された任務について説明された。
その婦人は、腕の中の小さな“子供”をそっと撫でる。
「……どうして、そんな事しか思いつかない方なのでしょう?
このユーディアが、女として塵の1つも役に立たない出来損ないだから?」
「お、奥様、それは……」
「嘆かわしい……」
ぽつりと呟き、彼女はトボトボと去っていく。
-48-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved