朝の訪れを告げる定刻のホルンの音が聞こえてくる。
「おはよう、諸君!」
ジストは高らかに手を挙げる。
おはようございますと頭を下げるトキとアキに挟まれ、ハイネは欠伸を噛み殺している。
何だか妙な夢を見た気がする。ぐっすり眠ったはずなのに、もう少しだけ布団の中の時間が恋しい。
メノウそっくりだな、と傍で同じような顔をしている夫に目をやり、ジストは玉座に腰掛ける。
「さて、そろそろ出発の時間だな。
ハイネ、君が会いたがっていた“クレイズ”という人物には、私から手紙を出しておいた。
青の国に入れさえすれば、恐らく彼は君に会ってくれるはずだ」
「ほ、ほんまですか?!
ありがとうございますっ!!」
「うむ。それと、ささやかながら旅の間の資金を援助させてもらおう。
こちらも赤の国への支払いでギリギリなもので、あまり多い金額は出せないのだが、好きに使うと良い。
ユーファをよろしく頼むぞ、うら若き旅人よ」
一通りの別れの挨拶が済んだ辺りで、ようやく大欠伸をしながらユーファが合流した。
「もう! 寝坊やん!! 置いてってまうで?!」
「朝から元気やなー、お前……」
城門までやってきたハイネ達4人は振り返る。
見送りに出てきてくれたのはメノウだった。
「気ィつけろよ。どっかでアトリに会ったらそっちもよろしくしてやってくれや」
「あ、あの!」
ハイネはとたとたとメノウに近づく。
「1つ、お願いしてもいい?」
「ん?」
ハイネは少し気恥ずかしそうに、小声でこっそりと『お願い』をする。
「頭撫でてほしい。ぐしゃぐしゃーって!」
ぽかん、としたメノウだが、くくっと笑って大きな手をハイネの頭に乗せた。
「行ってきー。怪我すんなよ」
思いっきりぐりぐりと撫でまわされた。
めちゃくちゃになった赤い髪を手で押さえて、笑いながらハイネは大きく頷いた。
「行ってきます!!」
元気に駆け出していく後ろ姿。
あの若者たちは、もう次の行き先だけを見つめている。
「……行ってしまったか」
いつの間にかジストが横に立っていた。
少し名残り惜しそうに、遠ざかる小さな背中を見つめる夫の瞳を覗き込む。
「なんだかなぁ。そんなはずはないのに、どっかで“あいつ”と会った事あるような気がすんねん」
「奇遇だな。私もそんな気がしていたところだ」
夫婦2人の間に春風のような流れが通り過ぎていく。
「娘、……ってのも、えぇかもなぁ」
「うむ?」
「いいや、何でもない」
踵を返した夫の横顔は、少しイタズラっぽく笑っていた。
-45-
≪Back
|
Next≫
[Top]
Copyright (C) Hikaze All Rights Reserved