ハイネ達が連れてこられたのは玉座の間だ。
そこでは、冷たさが極まった目付きのジスト女王が待ち構えていた。
彼女の夫の姿は、ここにはないようだ。



「君がハイネという者か?」

凛とした女王の声に思わず委縮しつつ、ハイネは頷いた。

「ほ――――……。確かに、メノウによ――――く似た少女のようだな。
我が息子、ユーファを助ける力添えになってくれた事には感謝しよう」

玉座から立ち上がって、つかつかとハイネに歩み寄る女王。
目の前に立ったかと思えば、ずい、と顔を近づけてくる。

「さぁて……。
この私の夫の不貞を口にした事、真偽はどうあれ大罪となる事は承知の上だな?」

「は、はい……」

「何故ヴィオルが易々とこちらの提案を受け入れたのか、疑問に思っていたところだ。
なるほど、君という存在を知ったヴィオルは、これを我が国の弱みとしたのだな。
君の存在が公になれば、アクイラ王家の誇りなど無残なもの。
そもそも私がヴィオルとの政略婚を蹴って、もともと彼に仕えていたメノウを伴侶に迎えたのだ。
そのメノウが不貞を起こせば、我が王家は空中分解も同然」

「仰る通りです……」

「少し君の事を聞こう。いいか、正直に答えるのだぞ。
君の年齢は? 母親は誰だ?」

すっかり震え上がってしまっているハイネだが、すぐ隣にいたトキがハイネの手を握る。
驚いてそちらを見ると、トキは少し微笑んでいた。
握られた手の暖かさを頼りに、思い切ってハイネは答えてみる。

「14歳です。母親は……ヴィオル王様には『ラリマー』っていう名前を教えたんですけど……
ほんまは『アガーテ』っていいます」

「アガーテ……?」

「あの、あの、本当にごめんなさい!!
うちの父親は確かに『メノウ』って人です。でもユーファのおとんのメノウって人とは別人なんです!!
つ、つまり……その……隠し子とかの話は、ぜ――――んぶ嘘ですっ!!」

どんな叱責をされるのか。
今更ながらにとんでもない事をしてしまったと心が泣くような気分だが、不思議と後悔はなかった。

「信じてもらえないかもしれへんけど……、うちは『別の世界から』来ました。
ここから20年前の、ここじゃない、でもそっくりな世界で、うちは暮らしてたんです。
もううちには両親がいません。うちが小さい時に死んじゃいました。
ずっと学校に通ってたんです。おとんが命懸けで入れてくれた学校に。
それで、そこでちょっと実験を手伝ったら、この世界に来ちゃって」

もう片方の空いている手に、小さい手が触れる。
――目を逸らすアキが、その手を握ってくれていた。

ポロポロと涙が落ちていく。

「罰なら、受けます。でも、友達は……、トキちゃんとアキくんは、見逃したってください。
全部うちが悪いんです。うちが、ユーファを助ける方法で思いついたの、こんな事くらいしか……」

「――せやから言うたやんけ。『身に覚えがない』ってな」

後ろから懐かしい声がした。





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