緑の国の中でも広大な土地を持つフロームンドという街。
ここは国の利益の大部分を占める麦の生産に携わる農業の街だ。
この地に先手を打って派遣されていたアトリの部隊だったが、王都からの帰還命令を受けて撤退する。
停戦の交渉がうまくいったのだろう。赤の国の軍が攻めてくる事はなかった。

――父上、どうやら“勝利”できたようですね。

澄んだ青空を見上げ、尊敬する父に思いを馳せる。
正直、安堵していた。戦経験のない若輩の自分が部隊を率いるなど、まだまだ力不足だと感じていたからだ。

街を守ろうと出陣してきたアトリの部隊を、感謝を込めて帰還の道へと送り出すフロームンドの住人達。
馬を走らせるアトリは、城に戻り次第、より一層の剣の修行を心に決める。父の教えをもっと知る必要がある。

その父自身が、今まさにとんでもない立場に追いやられているとは、まだアトリは知らない。





ミストルテイン王城の執務室にいたメノウのもとに、フリューゲル公爵が足を運ぶ。
無事に第一王子を連れ戻す事ができた旨と、ひとまずの危機は脱した事を告げた。

「ま、何はともあれ最悪の事態は免れたか。出費はかなり痛いが……」

「実はもう一つ、ご報告がありまして。
その……ユーファ様の命でお連れしたお客人の事なのですが」

ロードからの報告に、メノウは思わず飲んでいたコーヒーを噴き出す。





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