緑の国から派遣されてきた使者。
その大役を務めるのは、アクイラ王家に仕える大貴族の1つ、フリューゲル家の公爵だ。
急ぎの遣いには転移魔法を得意とする人物が任命される。
今回このブランディアに最速でやってきたフリューゲル公――ロードという男は、すっかり戦支度に沸いている王都を見上げて眉尻を下げる。
彼は白金の癖がちな髪をなびかせ王城まで足を運ぶと、身形を軽く整えてから門を叩く。
玉座に座るブランディア国王ヴィオルは、随分と面白おかしそうに笑いながら、奇妙な客人である赤い髪の少女の話を聞いていた。
その場に到着したロードは、国王の痛快そうな表情に困惑する。
「貴様がアクイラの使者か?
そろそろ慌てて送り込まれてくると思っていたところだ」
「は、はぁ……。
あの、緑の国の女王ジスト様より、貴殿に停戦の申し出を……」
「ひとまずは聞いてやろう。俺は今とても気分がいい。そこの小娘のおかげでな!」
ロードは、振り向いた少女の顔立ちを見て、抱えていた書類を落としそうなほど狼狽した。
「あ、貴女は一体何者……」
そんな事はいいから、と少女は早く使者の務めを果たせと身振り手振りで忠告する。
コホン、と切り替えたロードは、書類を広げてヴィオルに対する。
「“此度の非礼、誠に申し訳ない。当国ミストルテイン側に敵意はない。戦の意思もない。
望むままの金品と引き換えにユーファ・イーリス・アクイラの解放と貴軍の撤退を懇願する”」
くっくっく、とヴィオルは笑う。
「あの女も多少は素直になったようだな。
いいだろう、その条件で手を引こう。アクイラ王家が勝手に自滅する様を眺めるのも悪くはない」
拍子抜けな程にあっさりと聞き入れたヴィオルに、書面を読み上げたロードはさぞ不思議そうに首を傾げる。
その様子を見たヴィオルが赤い髪の少女を指差した。
「使者よ。その小娘に感謝する事だ。
そやつはあの野良犬風情であるメノウが外で撒いた子種だそうだ。
さて、あの女はどんな顔をする事やら?」
「ななな、なんですって??!!」
顔面蒼白になったロードは、ヘコヘコと頭を下げる少女の面影に衝撃を受ける。
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