赤の国の王都ブランディアに到着したハイネ達。
馬を降りると、街の中の剣呑とした空気にキョロキョロと視線を忙しく移動させる。
「なんや、この空気。ヘンなの。何か物騒な事件でもあったんかな」
「あっ、姉ちゃん! 城の方! 見て! あの旗!!」
アキが王都の奥を指差す。
煌びやかな金の装飾が施された石の城の頂上に、大きな国旗が掲げられている。
「あれは……なんでしたっけ」
目を細めるトキの腰をアキが拳で叩く。
「バカ姉ちゃん! 歴史の授業でやったろ!!
城の上で国旗を出した時は戦乱の合図って!!」
「せ、戦乱?! アキくん、どゆこと?!」
「なんだよー! ハイネも知らないのかよー!!
学生のジョーシキだろ!!」
「うちのとこにそんな歴史なかったもん!!」
「ようボウズ。良く知ってんなあ」
いがみ合うハイネ達の横を通り過ぎようとした通行人の男がニヤニヤと笑っている。
「久しぶりの戦争だぜ。ボウズも武器の腕は磨いておけよ。そのアタマならヴィオル王に認められて王城兵になれるかもしれねえ」
「は?! 誰が兵士なんか……むぐっ」
トキに慌てて口をふさがれ、アキは押し黙る。
「すみません、私達、今し方ここに到着したばかりの旅人で。
あの、赤の国とどこが戦争をするのですか?」
「緑の国だ」
ひゅっ、とハイネが青ざめる。
「え……、緑の国と? あの、ミストルテインと?」
「あぁ。なんでもアッチから吹っかけてきたらしいぞ?
いい度胸だよな。なぁにが『美と調和を愛する芸術の国』だよ。
聞こえのいい言葉ばっかり並べて、こうやって陰で別の国にスパイを送り込んでくるなんて」
「す、スパイ?!」
「あんたら、ホントなんも知らないんだなあ。
アクイラ王家が直々にブッ込んできたみたいだぜ。“跡取り息子”をよ」
がはは、と笑いながらその男は去って行った。
「こ、これってつまり、ユーファの事やろ……?!
かなりアカンのとちゃうか、この状況?!」
「始まっちゃうね。戦争」
「どうやらとんでもない誤解が生まれているみたいですね……。
私達、今から身の丈に合わない事に関わってしまいそうな予感がします」
それでも、とハイネは首を振る。
「わかってる。わかってるんやけど……。
……このまま見捨てるなんて、うちには出来へん……」
怖い。足が震える。もしかしたら危険な目に合うかもしれない。いや、きっと合うだろう。
でも、もしかしたら、――……
「なぁ、トキちゃん、アキくん。
うちに考えがあんねん」
「と、言いますと?」
しばらく考え込んでから、ハイネは大きく頷いた。
「うち、“メノウの娘”、やってみる」
トキとアキは目を点にした。
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