前を行く黒い軍服の後ろ姿。
平均的な身長のアトリよりも、父の背は高く大きい。
「父上、やはり私にはまだ冷静さが足りないのでしょうか」
ちら、と視線を投げてくる父。
答え合わせをしているかのように眉間に皺を寄せている息子を見た彼は、ふっと軽く息を吐く。
「お前は頭の回転が速い。より確実な方法を瞬時に導き出せる。それこそ冷徹にな。
別に間違っちゃいない。そりゃあな、“親”としての立場を考えなけりゃ、あのアホを殺した方が早い。かつ、最低限の損害で済む。
ところがまぁ、あんなんでも息子やし、お前にとっちゃ兄貴でもある。
甘いのはワイらかもしれんが……見放せるわけがないやろ」
つと立ち止まり、メノウは振り向いた。
「こういうのはな、相手の言いなりになった風にして、最終的にはこっちの望み通りになれば“勝ち”。
じゃあこっちの望みはなんや?
『ユーファを連れ戻して、緑の国も守る』。コレが及第点や。欲張りやからな、うちの国王は。
他人は皆、どちらかを捨てるのが現実的だと言うさ。
しかし両方を得る事ができたら? 誰も何も言えない。それは勝者。強さだ。
そういう国王に、国民はついてくる。
……つまり、必ずしも最短ルートが正解って訳でもないって話や。
あとは、“どっちも得る”ためにはどうすればいいかを考える」
「……やはり、まだまだです。私は最初から望み薄のものは切り捨てていた。
とはいえ、あの愚兄には一言物申したい」
「あぁ、それは同意や。戻ってきたらキッツい一発かましたるわ」
じゃあな、とメノウは軽く手を上げる。
「気ィつけろよ、アトリ。ま、お前の行軍がただの遠乗りになるように、こっちで何とかするわ」
「いえ、父上。私の事はお気になさらず」
「せやから、これもただの“欲張り”やて。まだヒヨッコのお前を戦場にやりたくない親心ってやつや」
気楽そうにそう言い残して去っていく後ろ姿にアトリは頭を下げた。
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