即席の薬で怪我の激痛が治まってきた頃に、二頭の馬に1人ずつ兵を乗せて、ハイネ達は馬を走らせる。

「一生の不覚です……。ユーファ様にもしもの事があったら、我々は……」

「まぁまぁ、そんな落ち込まんといて。
ユーファって強いんやろ? 簡単には死なへんやろ」

出発したはずのオアシスの姿が見えてくる。
もうすぐ夕方だ。

「ユーファ様は……多少の奔放さに目を瞑ればとても良いお方……。
次代の国王に相応しい、身の軽さと手腕を持つお方なのです」

思い出を語るように、兵はぽつぽつと呟く。

「ユーファ様にはアトリ様という1つ年下の弟君がおられます。第二王子です。
ユーファ様とアトリ様、どちらが次の国王に相応しいか協議中の今、こんな失態を……。
確かに、アトリ様も誇り高く毅然とした素晴らしいお方ですが……
アトリ様は微量の秩序の乱れも許さぬ厳格なお方。対するユーファ様は、例えば他国の小さな村であるオアシスのような地に住む者からも好かれるお人柄。
真の意味で緑の国の“父”となれるのは、我々はユーファ様だと信じて疑っておりません」

「……なんや、ずいぶんな忠臣ってやつやな~。
あんな兄ちゃんでも実はスゴいんか」

「はい。我々のような捨て駒でしかない兵を、命懸けで守ろうとするようなお方なのです。
それこそ、例え他国に囚われようとも……」



オアシスの門をくぐると、先程笑顔で送り出してくれた馬屋の主人が目を白黒させる。
怪我を負った兵を託し事情を説明すると、すぐにその話はオアシス中に広がり、住人が思い思いに武器を手にしたり兵達の介抱を買って出たりと騒がしくなる。

「……本当に、ユーファさんの危機で村一つがここまでまとまるなんて。
他国の王子様なのに。元凶は自分たちの王様かもしれないというのに……」

馬を撫でながらオアシスを見つめるトキはぼんやりと漏らす。

「よっしゃ、2人とも行くで!
目指すはブランディアや!!」

「ほんとにいいの、ハイネ?
急いでたんじゃなかった?」

「うちの方の用はまだ猶予がある!
せやから、あのケーハクな兄ちゃんがうちらに助けられて頭下げる様を見てやるんや!!」

「……そうですね。あわよくばもっとお金を貰いましょう」

再び馬に乗り込む女2人の執念。アキは幼心に畏怖を覚えたのだった。



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