――時刻は昼の頃。
オアシスから出発した、ユーファと彼の護衛の一味が、緑の国へ帰ろうと馬を走らせていた。
すると、待ち伏せていた賊の一味が襲いかかってきたという。
ユーファを守ろうと立ちはだかった老齢の執事がいたのだが、賊に斬りつけられそのまま死んでしまった。
他の兵士も抵抗したのだが、手練れの賊達に次から次へと殺されてしまい、残ったのは足をくじいた兵と手足を骨折した兵の2人。
ユーファは執事や兵達の仇を取ろうと斬りかかり、賊の大半は始末したのだが……。
更に隠れていた残党に不意を突かれ、連れ去られてしまった。
「馬は全滅。生き残った我々も足をやられて動けず。
オアシスに戻って助けを求める事すらできずに途方に暮れていたところです。
あぁ、貴女がたは神の思し召しだ……。どうか助けてはくれませんか?!
せめて、せめて我々をオアシスに運んでいただけるだけでも……!!」
「おじさん達、まぁ落ち着きなよ」
7歳の男児に諭され、兵達は目を丸くしながらも一度深呼吸をする。
「それで、ユーファがさらわれたっていうけど。
どんな賊だったのさ? 盗賊?」
「は、はい……。便宜的に“賊”と称しましたが、恐らくは何らかの鍛錬を積んだ者達。
戦いにおいては突出した才能の持ち主であるユーファ様の隙を狙えるなど、もはや戦いを生業にしている連中としか。
思いつく限りでは、この赤の国の……エレミア王家の手先、としか……」
「……だってさ、ハイネ。どうする?
これ絶対ヤバイやつだよ。ぼくの頭でもわかる」
「助けるしかないやろ!!」
寸分の迷いもない選択に兵達は口をあんぐりと開ける。
「え、えぇっ?!
ですが皆様はまだお若くて……」
「そうです、危険です!
我々がオアシスまで戻れれば、緑の国に危機を知らせる事ができますから!」
「……ねえトキちゃん。ここから緑の国までどれくらいやったっけ?」
「ここからですと、馬で数週間といったところでしょうか」
ハイネは動けない兵達に目線を合わせて座り込む。
「うちらな、そのユーファってやつにちょっと借りがあんねん。
おっちゃん達はオアシスまで届けたる。そっちはそっちで進めて。
でもそれを待っとったらいつユーファを助けられるん?
……うちらはうちらでユーファを探しに行く」
「な、なんと……」
「あーあ、ハイネのお人好し。ぼく知ーらない……」
「なんやー、アキくん。ほんまは心配しとるくせに!」
「だっ、誰があんなやつ!!」
はいはい、とアキの照れ隠しを流したところで、ハイネは鞄を漁る。
取り出したのはオアシスで買ってきた水と薬草だ。
「おっちゃん達、どこ痛む?
そこに合わせた鎮痛薬、パパッと作るわ」
「す、すごいですねハイネさん。そんな事できるんですか?」
小さなすり鉢を手に、ハイネはにんまりと笑う。
「うち、錬金術士のタマゴなんやで。痛み止め作りなんか朝飯前や」
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