砂漠の道を行く騎馬軍。
東へ向かってやや速めに蹄を駆らせる。
「ユーファ様、あまり感心いたしませぬぞ。貴方様は緑の国の第一王子であらせられる。
このような他国の田舎に身形すら変えず降り立つなど、無警戒の極み。
女王陛下も散々忠告してらっしゃるでしょうに」
「オアシスは親父の故郷みたいなもんやろ。その息子の俺が行って何が悪い。
お袋はわかっとらんのや。俺は“お袋みたいに”王室でぬくぬく育って王位を継ぐなんてのは御免やで。
まぁ、ひょっとしたら次の王は俺やなくて“アトリ”かもしれんがな! がはは!」
「ゆ、ユーファ様……。笑いごとではありませぬ……」
老齢の執事は溜息を吐く。
「別に、俺はそれでもえぇと思うで。
礼儀作法、生真面目さ、頭の良さ、召喚術だって俺よりアトリの方が優秀や。
俺はどうせならフラッと世界を旅したいわなぁ」
「それで、先程の若者達に声を掛けたと?」
「せや。あの年で旅人なんざ羨ましい限りやわ~。
俺も同行させてもらおかな?」
「ユーファ様!」
「あーもう、冗談やて! そんなに怒らんといて~。
ストレスで早死にするで~」
周りの兵達がフフ、と忍び笑いを漏らす。
和やかな雰囲気が崩されたのは、それから間もなくの事だった――……。
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