3人が砂漠を越えてきた先のオアシス。
大きな湖は相変わらず周辺の住人に恵みを与えているようだ。
驚いた事に、ハイネが暮らしていた頃のいかにもな田舎風貌ではなく、ちょっとした町のような規模に発展している。
湖から引いた水と井戸を繋ぎ、毎朝の日課だった水汲みの苦労も随分と改善されたようである。

まだまだ都会には程遠いが、無骨な石の道が綺麗な煉瓦の道へと変わり、荷を引く馬やラクダが頻繁に往来する。
建ち並ぶ住居と混じり合うように露店が広げられ、客寄せの声や値切る声で祭りのような賑やかさになっていた。

「たまげたなぁ……。めちゃくちゃキレイになっとるやん」

「姉ちゃん、ぼくお腹すいた。あの果物食べたい」

「もう、そんなにお財布に余裕ないのに……。
でも、そうですね。休憩がてら、食事にしませんか?
暑い砂漠だったし、水分くらいは取らないと」

「せやな。朝からなんも食べてないし。
おっちゃん、そのフルーツ詰め合わせちょうだい!」

「あいよ!!
……って、なんや嬢ちゃん、旅のモンかい?」

露天商が不思議そうにハイネの顔を眺めながら果物を差し出してくる。

「せやけど……なんで?」

「あぁいや。えれぇ“メノウ”によう似とるから」

――噛り付いた果物の果汁を噴き出すかと思った。

ゲホゲホと咳込みながら、ハイネは目を白黒させた。

「えっ、ちょっ……。ああああのっ、おっちゃん!
そのメノウって人、ここにおるん?!」

「いんや?
20年くれぇ前だったか。緑の国の女王様に見初められて婿入りしたっけよ。
ほんで、その女王様の恩恵でこのオアシスは一気に大盛り上がりだ!」

「む、ムコイリ……??」

理解が追いつかず、ハイネは無心でむしゃむしゃと果物を口に運ぶ。

「ハイネさん、お知り合いなんですか?」

「え、あ、うん、まぁ……」

「ほっほー、お前うちの親父の知り合いなん?」

いきなり後ろから男性の声がして飛び跳ねる。
振り返ると、汚らわしいものを見る目をしているトキの肩に馴れ馴れしく手を乗せている黒髪の青年が立っていた。
長身の彼の足元で、アキが気に入らなさそうにその顔を睨んでいる。

「よっ、“ユーファ”王子! 来とったんかい!!
ほれ、1つ持っていきー! 今朝とれたばっかのサボテンの実や。
時期外れやけど旨いでぇ」

「おおきに~。もらっとくわ」

もらったその場でシャリシャリとそれを口にする彼。

「……あんた、誰?」

思わずハイネが尋ねると、その青年――ユーファは、腹を抱えて笑い声を上げた。



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