「確かにな、うちは“悪い子”でもって言うたよ。
でもまさか、うちらについて来るとは思わんくて」
遠退くシュタイン家の方からけたたましい金切声が響いてくるのを聞き流しながら、ハイネとトキ、――そしてアキは集落を後にする。
「ひぃ~……マオリ先輩めっちゃ怒っとるやろなぁ……!」
「ごめんなさい、ハイネさん……。我が儘な弟で……」
「うるさいな。姉ちゃんがバカで心配だから仕方なくついてきただけだし!!」
父から譲り受けた地図を大事そうに抱えながらアキは悪態をついている。
「あとさ、トキちゃん」
「はい?」
「その……背中に背負ってるデカい斧、なに……?」
そこそこ長身であるトキの背丈ほどの大ぶりの斧。使い込まれて鈍い光を纏っている。
気になって恐る恐る聞いてみると、トキはきょとんとした。
「なに、って、護身用です。
見たところハイネさんは武器は使わなさそうですから、迷ったんですけど、やっぱり持って行こうって」
「お、重くないん?」
「姉ちゃん怪力だから。昔集落に来た悪党をその斧ブン回して追い払ったことあるんだぞ」
「はい。なので、ハイネさんは安心してください。多少の巨漢や魔物くらいなら私が真っ二つにしますので」
「い、いやぁ、心強いわぁ……」
何はともあれ、身の安全は少しばかり頼れそうだ。
集落を出て南西へ向かう。
土が砂っぽくなり、やがて温い風が吹き付けてくる。
ハイネがよく知る、辺り一面黄金色の砂漠が広がっていた。
「んー、懐かしい!!
未来の世界で懐かしいってのもヘンな話やけど!!」
この乾いた空気、燦々と降り注ぐ太陽。子供の頃の当たり前だった世界だ。
「せや、オアシス寄ってこーよ。
今から歩き通してもさすがに青の国まで辿り着くのは何日もかかるだろうし。
オアシスって、うちが元の世界で育った場所なんよ~」
「そうですね。オアシスで馬を借りましょう。
徒歩よりずっと早いですから」
「……馬の貸し出しなんか始めたんやな……」
20年後の故郷がどのような姿なのか。
好奇心が高まるような、少し不安のような。
――まぁ、さすがに20年経ったらじじとばばは死んでもうたやろなぁ……。
かつての育て親と呼ぶに相応しい老夫妻――ビャクダンとマシューの事を思い描く。
しばらく会っていなかったが、ハイネの世界では、手紙から読み取れる近況ではまだ元気そうだった。
そういえば、この世界の“自分”は今どうしているのだろう。
その答えなのか否か、当のオアシスにはちょうど珍しい客人が来ていたのだった。
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