「まさかとは思っていましたけれど、貴女本当に優秀な生徒のようですわね?」

下校と退勤の時間が重なったトキとハイネ、そしてマオリは、冷え込んできた帰路を急ぐ。

「うーん、あれくらいなら初等科でやったかな。
うち、錬金術専攻の中等科なんです」

「まぁ、錬金術?!
懐かしいですわね。わたくしも若い頃に修めようとして挫折した分野ですわ」

途中で集落唯一の商店に寄り、夕食の材料を買い込む。
マオリが目を引かれたものをアレもコレもと手にするせいで、いつの間にやらハイネとトキは両手が買い物袋で塞がっていた。

「あの、母さん。父さんが帰ってきたらでいいんだけど、ちょっと大事な話があって」

「まぁ、なあに? 何か欲しいものでも?
ウフフ、今日はちゃんと最後まで授業を受けて偉いわ。何か1つくらいなら買ってあげてもよくってよ?」

今日だけはちゃんと学校に行く、と今朝トキが言っていた理由が何となくわかった。
さぞ機嫌良さそうに買い物をしているマオリの姿が物語っている。
――20年経っても単純な性格なのは変わらないようだ。

「マオリせんぱ……マオリさん。その、二日もお世話になって、おおきに!
うち、明日には出発します」

「あら、そうなんですの?
娘がもう1人できたみたいで楽しいのに。
……もう1人。……あら、もう1人いてもいいかもしれませんわね……? ウフフフ」

「かっ、母さん。ハイネさんの前でそういうのは恥ずかしいからやめて……」

「おほほ、ごめんあそばせ!
さ、食材は揃いましたわ。帰りますわよ!!」

――アンリ先生、ほんまにあのマオリ先輩と結婚したりするんやろか……。

上機嫌の後ろ姿を眺めつつ、気の抜けた笑いが思わず漏れる。
ほんの数刻後には、彼女の機嫌が急転直下する事を予想しつつ、だ。




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