カンカンカン、と鐘が鳴らされている。授業の境目の合図だろうか。
学舎から子供達がわっと駆け出してきた。校庭に出てきた生徒達は、思い思いに休み時間を過ごしている。

ハイネがいた学校よりも簡素な構造で出来ているこの学校。
かつては青の国で名を馳せていたアンリが、余生を捧げるべく作り上げた空間なのだろうか。

「おや、ハイネさん」

校門の傍で立ち尽くしていたハイネの姿に気が付いたアンリが、校舎の窓から顔を覗かせている。
手招きされ、ハイネは学内に一歩足を踏み入れた。



「ここ、アンリ先生が作った学校って聞きました」

「えぇ。……そんな風に呼ばれるのは久しぶりです。ここ最近は“学長”としか呼ばれませんからね。
貴女、本当に僕の教え子か何かなんです?」

賑やかな生徒達の声の波の中を歩く2人。
すれ違い様に手を振る幼い生徒に薄く微笑んで会釈するアンリの姿は、どこか穏やかそうだ。

「ずっと作りたかったんですよ。僕の故郷であるここに、最初の学校を。
僕もね、青の国の魔法学校に行けたのは偶然の奇跡だっただけで。あそこは僕のような貧民出身の田舎者が行けるような場所ではないですし。
それでも、ずっと“学ぶ事”を夢見ていました。だから、この地に学び舎を作りたかった。
学びたいけどチャンスがないなんて、勿体ないじゃないですか」

「それって、いつからの夢だったんですか?」

「ずっと若い頃からですよ。妻と結婚するよりも前。ただちょっと、その頃はいろいろ立て込んでいたので……。
実際に故郷へ戻ってこうして学校を建てられたのは、トキが生まれた頃だったでしょうかねぇ」

ふと、ハイネの脳裏に“担任”であるアンリの姿が蘇る。
もしかしたら、ハイネが暮らしていた世界の彼は、今丁度その夢を抱き始めた頃なのではないだろうか。
しかし、今し方のこちらのアンリの話には少し引っ掛かる点がある。

「アンリ先生、……“立て込んでた”って、何かあったんです? その頃」

「ごく個人的な事ですよ。大事な人を亡くしてしまった、ただそれだけです」

――アンリ先生の、大事な人?

彼の横顔は、少し憂いの色を浮かべていた。



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