一緒に連れて行って欲しい――……
トキが何を思ってそう申し出たのかはわからないが、ハイネは内心とても舞い上がっていた。
いくら地理に大差はないとはいえ、ここは想像もつかぬ20年後の世界。自分1人で旅に出るなど、正直躊躇ってしまう。
だが年の近いトキとなら、勇気を出して踏み出せるような気がしたからだ。
トキが学校へ行っている間、ハイネは集落の中を見て周ることにした。
集落内に点在する畑は大部分が耕され、作物の実りを待っているようだ。
この様子から察するに、この世界の季節は春の半ばくらいだろうか。
畑の傍でしゃがんでまじまじと作物を観察していたハイネだが、後ろからしわがれた老人の声に呼びかけられる。
「お嬢ちゃん、トキちゃんの友達かい?」
振り返ると、腰の曲がった老齢の男が杖をついて立っている。
うん、と頷いたハイネは昨日会ったばかりだけど、と付け足し、照れたように笑う。
「さっき、珍しく学校へ行くトキちゃんに会ってのう。今日は畑仕事休みます、なんつって。
お前さん、この辺りの出身ではないじゃろ?
お前さんのおかげでトキちゃんも学校に行こうと思ったのかとな」
「あ……、ごめんな?
もしかして、畑忙しい?」
老人は目を細めてほっほっほ、と笑った。
「いやあ、昨日で大方の作業は終わらせてくれたみたいじゃの。
なぁに、若いモンは知識をつける学び舎に向かうべきじゃ。
ましてや、アンリ君の娘ときたらのう!」
目の前の畑を見渡すようにゆっくりと体の向きを変えた老人は、顎に蓄えた白い髭をわしゃわしゃと揉む。
「トキちゃんはなぁ、机に噛り付くよりも鍬を持って体を動かす事が好きな子なんじゃよ。
確かに、あの子はこの集落の学び舎の長の子じゃ。……じゃが、そもそもこの集落には学び舎で学ぶ文化などなかった。ほんの十数年前まではの。
そんな地に教育というものを根付かせるには、あの子が模範とならねばならなかった。
それが苦しかったんじゃろ、トキちゃんは。
だもんで、ワシの腰の調子が悪い時は、よく畑仕事を手伝ってくれたのじゃ。学校へ行かずに済む言い訳として、な」
集落の奥に佇む長屋に思わず目をやる。
今朝、憂鬱そうに学校の事をぼやいていたトキを思い出した。
――トキちゃん、もしかして、……だからうちと一緒に?
「今、ちょうど午前の授業が終わる頃じゃろ。お前さん、興味があるのなら学舎を覗いてみるといい」
老人と別れ、ハイネは学校の方に足を向けた。
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